ノストラダムス語彙の検討2009/03/28 23:26

『ロンサール研究XX 特別号』(2007)は、「ロンサールの詩における戦争と平和」というテーマで論集が組まれている。その一番最後の論文「ロンサールのテキストにおける<<guerre>>と<<paix>>―計量的観点から見た1558~1559年出版の小冊子群―」はテクスト分析の方法論として興味深く読めた。この二つの単語をキーワードとして機械的な計量的分析を行っている。岩根氏がいうようにテクストを読み込んでいれば肌で感じることを統計処理で有意性を裏付けようとするものだ。ノストラダムス予言集でのテーマ分類といえば、ダニエル・リュゾが"Le testament de Nostradamus"(ノストラダムスの遺言書)のなかで予兆詩を含めた形で行っている。試しに上記の論文にある「戦争」と「平和」というキーワードに注目すると、「戦争」については予言集のなかで底流を占める主要テーマであるため、テーマの観点を別の角度から振り分けている。

「平和」paixについては48篇の四行詩に見られるが、他のテーマを構成するのに使用されているものを除くと、29篇がこのテーマを形成している。さらに意味の近い、4-6 la treuve(休戦)、4-77 pacifique(平穏な)、6-24 pacifiera(平和にするだろう)、1562-3 pacifie(平和にする)、1562-7 pacifie、2-100 finira la guerre(戦争を終結するだろう)、7-12 fini de la guerre(戦争の終結)を含めた36篇がテーマに該当するという。上の論文では、語彙の検討に入る前に問題点を掲げているが同様のことが当てはまる。こういった分析を行うには、ノストラダムスの作品が予言集以外の暦書も含めた形で電子文書化され、かつ検索に必要な処理が施されているのが前提となる。この処理というのはすべての変化形が整理されており、辞書の見出し語形で検索可能ということ。テクストには異文もある。これらを含めた「ノストラダムス電子コーパス」は現状では夢の世界でしかない。

これまでもノストラダムスの語彙を整理した研究はある。その先駆けといえるのが、1867年アナトール・ル・ぺルティエの"glossaire de la kangue de Nostredame"(ノートルダムの言語の語彙解説)で、1940年シャルル・レイノー・プランセがこれを引き継いでいる。英語圏ではエドガー・レオニ、バルド・キドゴ、ピーター・ラメジャラ、本場フランスでは1989年に出版されたミシェル・デュフレーヌの"Dictionnaire Nostradamus"(ノストラダムス辞書)―エリザベート・ベルクールの転写した偽1605年版テクストに基づいているが―がある。最近の研究成果として、2002年にマリニー・ローズの"Dictionnaire des ecrits Prophetiques de Nostradamus"(ノストラダムスの予言文書の辞書)、619頁もの大著が登場した。こうした辞書の編纂は、地味で辛抱強くなければ日の目を見ることがない。sumaruさんのノストラダムスの大辞典でも主要な語彙の整理を行っており今後も注目したい。