澁澤龍彦とノストラダムス2009/03/14 23:04

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4336047510_1.html
日本のノストラダムス現象でも紹介しているように、ブーム以前に澁澤氏はエッセイのなかでノストラダムスの簡単な紹介を行っている。どういった文献を参照したのだろうか、これまでなんとなくすっきりしなかったので『書物の宇宙誌―澁澤龍彦蔵書目録』をじっくりと読んでみた。ノストラダムスに関する最初のエッセイは1961年4月「宝石」に発表された「星位と予言」である。この中に転写された2枚のノストラダムスの肖像が手掛りとなる。ひとつはコラン・ド・プランシイの『地獄大辞典』(パリ、1863)に挿入されたもの(肖像画コレクション図版17)で、もうひとつが18世紀の銅版画(同、図版10)と紹介されているものだ。先の目録を読むと、澁澤氏の蔵書にあるプランシイの本は1972年であった。つまり原書にあったのではなく二次資料からの引用ということになる。この二つの図版が載っているのが1948年に出版されたカート・セリグマンの"The History of Magic"(魔法の歴史)で、ノストラダムスに関する記述もこの本の構成とほぼ一致している。

『妖人奇人館』に収録されているエッセイ「ノストラダムスの予言」は「別冊小説現代」1968年1月15日号に発表されたもので、ノストラダムス予言集の百詩篇8篇を引用している。今日のビリーバー系で特に有名な予言ばかりなので、ノストラダムスを主題にした注釈書を参照したのは間違いない。そこで先の蔵書目録を丹念に読み進めていくと、タイトルにノストラダムスとある本が2冊見つかった。

同書36頁 03-04 オカルト/超科学/世界詩人全集/プリニウス英訳 08 Nostradamus, Touchard (Michel), Grasset, 1972

同書66頁 07-04 評伝 23 Nostradamus: prophete du XXe siecle, Monterey (Jean), Nef de Paris, 1961

前者は「ノストラダムスの予言」から3年後に刊行されたもので、おそらく単行本にしたときに、必要があれば新情報によって改訂できるようにと入手したものだろう。後者は目録の頭に★印がついている。これは本の中に書き込みがあることを示している。よって「ノストラダムスの予言」を書いたときの主要参考文献がモントレーの本であるのは確実である。実際に対比してみる。

 『妖人奇人館』89頁 1-60 ナポレオンの誕生 (モントレー97頁)
 同書90頁 3-18 第一次世界大戦 (同、115頁)
 同書91頁 9-16 フランコ独裁の成立 (同、119頁)
 同書92頁 5-4 第二次世界大戦中のエピソード (同、121頁)
 同書93頁 5-29 ヒトラーのヨーロッパ制圧 (同、131頁)
 同書94頁 2-24 ドイツの敗北 (同、133頁)
 同書95頁 2-90 ハンガリー事件 (同、140頁)
 同書97頁 10-72 恐怖の大王の到来 (同、225頁)

『書物の宇宙誌』を見ると、あたかも澁澤氏の自宅を訪問したかのように書架に収まった本を覗けるのが嬉しい。この蔵書目録は書架に並んだ本を順番に載せているので書名での索引がないのは不便である。テーマもバラエティに富んでおり澁澤氏が稀有な読書家であったことが改めて知らされた。自分の蔵書も、澁澤氏の何十分の一でしかないが、こんなふうに整理ができればという珠玉のお手本といえるだろう。