Prognosticationと占筮2009/08/23 23:32

ノストラダムスの年ごとの発行物にAlmanachアルマナとPrognosticationプログノスティケーションがある。前者は一般的に「暦」と訳される。後者はウィキペディアを参照すると「占筮」(せんぜい)と訳されて一応「予測」、「占い」も併記されている。占筮を「うらない」と読ませるのは、渡辺一夫氏の訳語『パンタグリュエル占筮(うらない)』から来ていると思われる。確かにラブレーも立場は違えども当時流行していた占い本を手掛けているが基本は占星術に基づいている。もともと占筮の原義は筮竹(ぜいちく)を使って卦(け)を立て、吉凶を占うもので中国の『易経』の占いから来ている。渡辺氏はラブレーの古い占いのイメージを喚起する目的で占いの当て字で占筮を用いたのだがこれをノストラダムスに適用するいわれはないように思われる。

『ラブレー周遊記』の宮下氏や『ラブレー笑いと叡智のルネサンス』の平野氏などは単に「占い」としている。ノストラダムスの場合にはPrognosticationは「予測」という訳語を充てたほうがすっきりする。そもそも「暦」と「予測」はどう違うのだろうか。宮下氏によると、占星術には二種類あって「自然的占星術」と「判断的占星術」に大別される。「自然的占星術」astrologie naturelle は今日の天文学の粗型、つまり正当な天文学から「暦」に通じる。これと対立するのが「判断的占星術」astrologie judiciaireで別名「未来を予言する占星術」でこちらは「秘教的な魔術」としてラブレーのような知識人は批判的であった。ラブレーの『1541年の暦』とノストラダムスの暦を比較すると、カレンダー形式で祝祭日や簡単なモットーが添えられている。

一方ノストラダムスの予測は占星術をベースにおいた未来予測を主眼としている。ラブレーの予測はどんな形式だったかわからないが当代の占星術に対する風刺的な役割を果たしていた。そこでは「占い」という訳語のほうがしっくり来る。そろそろノストラダムスに関して占筮という訳語は幕を下ろしてもいいのではないだろうか。

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