2023年の予言2023/01/15 14:49

毎年、ノストラダムスの大事典では「20XX年の予言」について綿密に分析した記事を執筆しているが、今年はお忙しいとのことでまだ記事は発表されていない。この手の予言はインターネットや実話ナックルズに毎年年末に出る予言話のツマのようなものでまともなノストラダムス論というわけではない。ちなみに2022年の予言を見返してみると、「闇の3日間」をモチーフにした予言が取り上げられているがもちろん人類の3分の2が滅亡することなんてなかった。ノストラダムスの予言のなかに「闇の3日間」を取り込んだシナリオは、今からさかのぼって1972年のイタリアのA.ボルドベンの著書『Dopo Nostradamus(ノストラダムス以後)』に見られる。手元に英訳本と独訳本があるし何度も再版されている。日本でも浅野八郎が『世界の奇書101冊』(1978)でその一部を紹介したことがある。ボルドベンの本は、日本で『ノストラダムスの大予言』(1973)がベストセラーになる以前のもので、英語圏でエリカ・チータムの本(1973)、フランスのフォンブリュヌの本(1980)が話題になる前の論である。1970年代はノストラダムスの予言を他の予言者の予言と複合的に取り扱ったものが流行っていた。フランク・スタッカートの本(1978)にも同じような傾向が見られ「闇の3日間」が取り上げられている。そんな古い話がボルドベンからちょうど半世紀を経て取り上げらたというからネタ切れともいえるだろう。

さて昨年も年末に「実話ナックルズGOLDミステリーVOL.9」がコンビニに並んだ。ノストラダムス自体はすでにブームが去り、過去のイベントに追いやられているので、表紙に「2023年人類滅亡の序曲」とあっても眉唾物として受け取られるだろう。それを娯楽として楽しむ分には問題はない。みんなが気になるのはウクライナ情勢が今後どうなっているのかだろう。軍事専門家でもいろいろな意見があるようだし、ノストラダムスの予言集のなかにそれに該当するような箇所はなかったのでなんともいえない。と、思っていたら詩百篇4-100を取り上げている。

天の火が王家の建物へと
マルスの光が衰えるであろう時に
7カ月の大いなる戦い 呪いで死んだ人々
ルーアンもエヴルーも王に背かないだろう

著名なノストラダムス研究家によれば、これはロシアとウクライナに起因する、より大きな第三次世界大戦の序章を示している」と解説されているが、もちろんロシアもウクライナの地名も出てこない。マルスをロシアを指しているとすれば「ロシアの栄光が衰えた先に、「大いなる戦い」が起こる」そうで2023年が危険な年になるという。そもそもノストラダムスがロシアについてどの程度の知識を持っていたのか立証することは難しい。同時代人でノストラダムス自身が参照したことが確実であるリシャール・ルーサの本では、スキタイ人とロシア人の同一性を主張しているが現代の視点ではそのような記述は誤りとされる。スキタイ人は主に現在のウクライナと南ロシアに相当する地域に住んでいた。こうした背景からすると、ノストラダムス自身がウクライナ戦争を思い描くという構図は成り立ちにくいだろう。インターネットで検索してみると、上の解釈は'High' Nostradamus warned about WW3 by God and space thanks to 'angelic spirit'に見られ、その日本語版は、【またまた・・】ノストラダムス2023年に「第三次世界大戦」を予言か!?謎のメッセージが話題になるのだろうか。この2023年の予言も今年の年末になれば結果が判明する。的中しないことを祈るばかりである。

なお、4-100のソースとして、ユリウス・オブセクエンスの『Prodigiorum libel』驚異の書が指摘されている。

C. Furnio C. Silano coss. [A.U.C. 737 / 17 B.C.]
71. Sub Appennino in villa Liviae, uxoris Caesaris, ingenti motu terra intermuit. Fax caelesti a meridiano ad septentrionem extenta luci diurnae similem noctem fecit. Turris hortorum Caesaris ad portam Collinam de caelo tacta. Insidiis Germanorum Romani circumventi sub M. Lollio legato graviter vexati.

アペニン山脈の下、シーザーの妻であるリヴィアの村で、大地は途方もない動きによって破壊された。南から北に伸びる天の光が、夜を昼のように輝かせた。コリーヌ門にあるシーザーの庭園の塔は天から触れられた。ドイツ人の陰謀に囲まれたローマ人は、公使M. ロリウスの下で深刻な嫌がらせを受けた。

伝染病や戦争ノルマンディの陰謀の前兆として、宮殿に雷が落ちることを示していると思われるが、これを実際の光景に当てはめるには受け手側に豊かな想像力が求められることだろう。

イギリス王室の予言2023/01/21 22:29

『発禁版「シン・都市伝説」大全 知ってはいけない! あのニュースの黒幕&陰謀スペシャル』一見ワンコイン本かと思ったら定価880円だった。昨今の円安の影響か、いろいろなものの物価が上昇しており、ワンコイン本にも価格転嫁の波が押し寄せたのか。表紙を見ると「ノストラダムス「2023年の大予言」とは?」というクレジットが見られる。19世紀のフランスのアルマナックにノストラダムスの名前をつけて枕詞付けしたのと同じようなものか。時代は変われど人の考えることはそう変わりはないのである。本のタイトル通り都市伝説のお話が次々と登場する。物事をいろいろな角度から見るという点では面白く読めた。198頁には「エリザベス女王の死去を的中させ「ノストラダムスの大予言」が復権」とある。そのなかでマリオ・レディングが2005年に発売した本で、「イギリスのエリザベス女王が2022年頃母親の生涯より5年短い96歳あたりで死去するだろう」と解釈した箇所がある。確かに昨年エリザベス女王が亡くなりチャールズ国王が王位を継承したということではレディングの解説は当たったといえる。しかし、ここの部分だけ見てノストラダムスの予言(レディングの解釈)の信憑性を取り戻したとはいえないだろう。2023年の予言として取り上げているのはやはり詩百篇4-100で断片的な引用を行っている。「7ヶ月の大きな戦争があり、悪魔の所業によって人々が死ぬ」「天からの炎が王宮に降り注ぐ」というのを英デイリースター紙などの複数の海外メディアが伝えているとしている。
エリザベス女王の逝去を予言したというマリオ・レディングの"Nostradamus The Complete Prophecies for the Future"未来への完全予言(2006)が手元にある。頁数は340頁。Google Booksで検索してみると、最初の版は1999年で244頁。次に2006年、その後2010年版は368頁、2016年版は444頁の拡張バージョン。2006年版を入手したのは2006年9月、価格は1773円で紀伊国屋のウェブサイトで購入したもの。購入した当時はそれほど精読した記憶もなく年代と予言が並んでいる目次を眺めた程度だったかもしれない。イギリス王室の予言を見て、当該箇所を確認してみた。

この本の構成は項目、日付、四行詩の原文と英訳、予言解釈とサマリーとなっている。2022年の項目には、「英国王位継承」と「イギリスのチャールズ三世の退位」とある。エリザベス女王の逝去した後にチャールズ国王が王位を継承するのは自然であるが退位するというのはどういうことだろうか。詩百篇6-72にはこうある。

 神の感情の激しさを装って
 偉大なる者の妻はひどく不当な扱いを受けるだろう。
 裁判官はそのような教義を非難することを望む。
 犠牲者は無知な民衆の生贄となる。

チャールズ皇太子とその妃であるカミラ・パーカー・ボウルズは、チャールズ皇太子の母であるエリザベス二世の死後、憲法上の危機に直面することになる。この危機を引き起こすのは、伝統的に君主を頂点とする英国国教会である。国から干渉されることなく、自分たちのことは自分たちでやりたいと考えるゼネラル・シノッド(総主教会)は、二人の市民結婚式に対する攻撃に基づいて危機を仕組むだろう。法的には、この攻撃は根拠がなく、判決はカップルに有利になるであろうが、プロレタリアートの力(すなわちメディアを通して)を使うことによって、ゼネラル・シノッドはその方法を得るであろう。関連する指標となる日付は、次の四行詩によって与えられる、2022年[10-22]であり、この予言は続く。(同書97頁)

そして次の詩百篇10-22はこう書かれている。

 離婚を反対されたから 
 後に彼らがふさわしくないと考えた人物 
 民衆は島の王を追い出すだろう 
 王になることを予期していなかった男が王に取って代わるだろう

この四行詩は、イギリス国民にとって驚くことではなく、大きな意味を持つ。まず、2022年頃、エリザベス2世が母親の寿命を5年縮めて96歳で亡くなるということ。チャールズ皇太子がエリザベス女王に代わって戴冠し、「諸島の王」となり、母が治めていた世界の他の地域(カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)の王では無くなるということである。- その間に共和国となる。チャールズ皇太子は2022年に74歳で王位に就くが、ウェールズ王女のダイアナ妃との離婚後、英国国民の一部から恨まれていることは今も続いている。そのプレッシャーは非常に大きく、年齢的にも不利なため、チャールズは息子のために退位することに同意する。問題は、どのような人物かである。最後の行で、ノストラダムスは「王になることを予期していなかった男が王に取って代わるだろう」と非常に重要なことを述べているからである。つまり、父親の跡を継ぐと期待されていたウィリアム王子は、もはやその姿を現さないということか。そして、既定路線でハリー王子が代わりに王になるということなのだろうか。そうなると、ヘンリー9世は38歳という若さになってしまう。(同書99頁)

しかし、現実にはチャールズ国王が2022年に退位したという事実はなく、さらにハリー王子は2020年に王室メンバーから引退し、北米で生活するようになった。最近ではハリー王子の回顧録『SPARE』という暴露本が出版されベストセラーになっている。レディングが本を執筆した時点では予想もできないことが次々と起こり、上の解釈が現実になるとは考えづらい。

そもそも2022年の少し前の予言を見ると、2020年は「ローマ教会分裂後」、2021年は「フランス南部でのテロ事件」「島の誕生」「ハリー王子の父子関係」であり、当たったと思われるものは何もない。たまたまエリザベス女王の逝去の年が的中したのが話題になっただけ。2023年以降の予言に興味のある方はインターネットで簡単に入手できるが期待外れに終わるだろう。