学術都市アレクサンドリア2009/10/07 23:21

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4062919613.html
野町啓 学術都市アレクサンドリア 講談社学術文庫 2009年9月 を読んだ。最近出たばかりの新刊書であるが、2000年に刊行された新書を文庫化したものである。アレキサンドリアといえば、エジプトの古代都市、アレクサンドロス大王が建てた巨大都市である。ここに世界の叡智を集めた大図書館やムーセイオン(博物館)があったが、そのほとんどが失われてしまった。これまではそういうイメージが強かった。最近ではパシフィコ横浜で「海のエジプト展」を見たこともあり、海底に沈んでいた遺跡が引き上げられて当時の様子が詳しく再現されている。本書を手にしたのも、アレクサンドリアという都市でどのような書物が蒐集され研究されていたか、そんな好奇心に応えてくれる気がしたからだ。

期待に違わず、著者は研究者として膨大な文献を丹念にあたり、アレクサンドリアにまつわる学術関係の断片的な資料を分析している。一般に向けた読み物であるが、謎の古代都市のベールを少しずつ剥がしていきながら真実の姿に迫っている。2000年以上も昔に、統治者の号令のもと、世界中から本を集めて図書館を作る、そして文献を研究する書誌学者がいたことに親近感を覚える。当時は長大な叙事詩であるホメロスのテクストの校訂作業というのが学者としてのステータスだったようだ。もともと話語りで伝わっていたテクスト、写字生の裁量でテクストが付け加えられたり、注釈されたりしていた。こうした学者たちのパトロンとして時の権力者がバックアップしている。もともとヘブライ語で書かれていた聖書をギリシャ語に訳したものこの時代である。

こうしてヘレニズム文化の最盛期を迎えた。第五章の哲学都市アレクサンドリアでは、ルネサンス魔術の萌芽が見出される。占星術や錬金術のような疑似科学も当時は盛んに研究された。プラトニズム、ユダヤ教、クリスト教、ヘルメティズム、グノーシスなど様々な宗教、思想が成立している。それが古代、、中世を経てイタリア・ルネサンスで再び開花することになる。こうした思想の源流を辿ると、すべて学術都市アレクサンドリアに辿り着くのではないだろうか。お勧めの一書である。