裏切られたノストラダムス2008/10/11 23:47

アルブロンの文献コレクションをざっと眺めていると見覚えのあるデザインが目に留まった。"Prevoyance"(1582年まで6年間の予測)という本に、偽年代1568年版ノストラダムス予言集の表紙(http://www.ne.jp/asahi/mm/asakura/nostra/chrono/1568_BN101.htm)に載っている楕円の枠のなかに人の姿のあるカットと同じものが見つかった。このデザインは1867年に出版されたアナトール・ル・ペルティエの著作の表紙に用いられている。(http://books.google.co.jp/books?id=IDIJAAAAQAAJ&as_brr=3)1981年にフランスで出版されたエリザベート・ベルクールのノストラダムス本の表紙にも載っており、このデザインについて解説しているのを思い出した。

ベルクールの本は原書が出た直後1982年に邦訳『裏切られたノストラダムス』が出版されている。この本ではベルクールの師であるアルベール・スロスマンが序文を書いており、フランス第一のノストラダムス研究家と紹介されている。試しに著作を検索してみると、1982年1983年にベルクールとの共著があるけれど本のタイトルを見る限りノストラダムスの研究書ではない。この本は単に当時フランスで起きたノストラダムスブームを批判するために書かれたものである。当時は様々な史料を引用しているので学術的にしっかりした本かと誤解していた。今見ると、6-100の警告のラテン語詩の解説で古代の「神の儀式」に従ってかけられたノストラダムスの呪いなんて想像の産物であることが明らかになっている。

で、ベルクールは「表紙はノストラダムスの希望によって念入りにデザインされた。楕円形のなかにノストラダムスの姿がはっきり見て取れる」(同書96頁)と書いているが誤りである。1581年の本ではそれぞれの年に対応させて惑星を司る神々を描いた挿絵が載っている。そのうちの一つユピテル神は1597年を支配するもので、楕円形のなかの人物は決してノストラダムスではない。もともとベルクールの引用した1605年版予言集は偽年代版で、挿絵は出版者によりノストラダムスの死後別の本から転用されたものでノストラダムスが希望したデザインというのはどこにも実証的な裏付けがない。他にも疑わしい記述が見られるため注意が必要である。