王座戦第一局は激辛流で羽生の先勝2008/09/05 23:11

http://live.shogi.or.jp/ouza/index.html
やっと出張から戻ってきた。久しぶりの更新となるがスパムの攻撃には閉口させられる。今月号の将棋世界の「勝又教授のこれならわかる!最新戦法講義」は「羽生マジック」の仕組み、教えます、と羽生将棋にスポットを当てた専門的な分析を行っている。そのなかで森下九段の話「本当に激辛なのは羽生だけ」という見方は面白い。そこには羽生将棋の特長を的確に表現したエッセンスが凝縮されている。激辛といっても羽生は手堅いだけではなく、必勝の局面でもう一度腰を落として常に最善でくる。本局の終盤はまさにそれを実感させられる激辛ぶりであった。もちろんそれが正確で最短の勝ち方なのだ。

9月3日に行われた竜王戦挑戦者決定戦ではそれまでの対羽生戦の連敗をストップして1勝1敗。木村が粘る羽生を振り切ってなんとか勝ち切った。やはり羽生を攻略するには先手番がほしい。王座戦は五番勝負の短期決戦だけに初戦を取ることは奪取に向けて大きなアドバンテージになる。残念がら振り駒は羽生にほほ笑んだ。戦型はちょっと複雑な後手一手損角換わり。相腰掛け銀から羽生の攻勢、木村の守勢という双方の持ち味が出た展開となる。先手が▲2四歩の交換から強く3四の横歩を取ったことで攻め切るか受け切るかといった激しい将棋になった。しかし先手玉は堅く、こういう展開は通常は先手勝率がいいイメージがある。受けに自信のある木村だが振りほどくのは容易ではない。

木村は受け一方では勝ち目がないとみて71手目△6九角と反撃を試みるも77手目▲4四角が攻防の好手で結局届かなかった。最終盤羽生の83手目▲3九金や87手目▲8八角、最終手の▲6四銀はまさに激辛の勝ち方。万が一にも逆転されないように必勝の局面でも万全の読みを入れてグリグリ駒を押し込むように指す。それが羽生の強さの正体といえる。木村は次の先手番は何が何でも勝たなければならない。さもないとストレート負けを喫する可能性だってある。

人類史のなかの定住革命2008/09/06 23:52

西田正規 人類史のなかの定住革命 講談社学術文庫 2007年 を読んだ。ヒトは自分たちの祖先がその大昔にどんな生活を営んできたかちょっと気になるものである。本書によると、霊長類は進化の過程では不快なものに近づかない、危ういものから避けて生活する遊動生活を基調としていた。約1万年前に定住化、社会化が起こりムラが出来ていった。これを定住革命と命名している。自分自身をそうした太古に置いて考えてみると、生きていく上で一番重要なモノは当然食糧である。農耕を知らない時代をイメージすると自然のなかに生息しているてっとり早く食べられる木の実、身近にいる魚や獣を追うことだろう。

まさにアメリカのテレビドラマLOSTの生活そのものである。気候が年中温暖であれば食糧は常に手の届くところにあり備蓄する必要もない。狩猟採集の遊動生活してどんどん中緯度地域に進んでいくにつれて四季の変化を受け入れざるを得なくなる。冬場はすぐ手に入る食糧も見つからない。備蓄できる食糧を考えねばならない。そこで牧畜や農耕といったその土地にどっしりと根を下ろしてイエを作り、集団で手分けして様々な食糧を確保していくことになる。本書では縄文や弥生時代の化石、現代の集落の形態などから人類史のなかで画期的な定住革命が起きたと見る。なるほど、理路整然としていて説得力のある話である。

ヒトは自らの危険を守るため、狩猟のために手に棍棒などを持ちながら直立歩行をする。そのため敵と仲間とを区別して声を掛け合うようになりコミュニケーションのための言語が必要となった。フェーストゥフェースで声を掛け合うことで無用な争いを避けて集団生活を送っていたことだろう。ヒトの根源はそう簡単に変わるものではない。本書の見方でいうと、今日の携帯電話やメールだけでヒトとヒトとのコミュニケーションがきちんと取れなくなったとき、思いもよらない犯罪が起こる可能性がある。確かにニュースで昨今の事件を見ていると、あながち間違ってはいない感じがする。

ヘンリー・C・ロバーツのノストラダムス解釈本2008/09/07 23:06

1974年、日本で第一次ノストラダムス・ブームが起きたとき事実上予言集の原典と見なされていたのがヘンリー・C・ロバーツHenry C. Roberts『ノストラダムスの完全予言』The complete prophecies of Nostradamus である。五島勉氏の『ノストラダムスの大予言』や高木彬光氏の『ノストラダムス大予言の秘密』に本の表紙のカットが載っているので覚えておられる方がいるかもしれない。手元の原書は1981年第45版。著作権表示を見ると、1947、1949、1962、1964、1966、1968、1969とあるから少しづつ改訂されていったのだろう。五島氏は参照した版に触れていないが、高木氏は最初ある人から秘蔵の本を借り出し(1970年第20版)研究を続けながら別にアメリカに注文したという。(1973年第22版)1969年以降は版を重ねながらも特別な改訂はなかったと思われる。

日本で初めてロバーツの解釈を紹介したのは黒沼健氏である。1963年に出版された『古代大陸物語』の「ノストラダムス落穂集」で1949年に刊行されたロバーツの解説書(第2版)から第二次世界大戦に関係する予言を拾い集めている。日本関係のもの3篇、ドイツ関係のもの11篇、イタリアに関係のあるもの5篇、そのほかの驚異の予言3篇。四行詩の形式で翻訳されているが特に章番号は記されていない。「謎のヒトラーの最後」という作品では章番号を付してノストラダムスの予言第10巻4番の詩と透視能力者フルコスの奇妙なエピソードを紹介している。ロバーツの示した予言集テクストは序文にもあるように、1672年の最初の英訳者テオフィルス・ガランシェールの本である。この本は偽の四行詩が含まれていたり、歪められたテクストが取り込まれているなど評判は芳しくない。

それにも関わらず現在でもロバーツの本は版を重ねている。著作権表示によると、1982年には娘婿のリー・ロバーツ・アムステルダムとハーベイ・アムステルダムによる新装改訂版が現れている。手元には1985年にグラフトンより出版されたペーパーバック版がある。これを見ると、フランスのブームを受けてか、2-97などは1981年の事件と解釈を変更している。ちなみにたま出版の原典は監修者の内田秀男氏が1966年に友人の尽力で入手した原書の翻訳とある。戦後、話題となったロバーツの解釈本、今やその使命を完全に終えたのは間違いない。

図解 第三帝国2008/09/08 23:57

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4775305514.html
森瀬 繚/司 史生 図解 第三帝国 新紀元社 2008年 を購入してみた。本の帯には興味を知識に変えるF-Filesシリーズとある。本書はそのNo.15で、ナチスドイツの組織と歴史が図解でわかる!と銘打っている。本を開くと、5章に分かれていて各テーマごとに見開きのページになっている。左のページには見出し、要約、説明文、右のページにはグラフやチャート、写真を挿入して関連事項の単純化した意味付けを行っている。そして最後に関連項目として見出しとナンバーを参照させる。決して専門的なナチ論ではなく、アニメやヒーローもの好きが初めてナチスを読む際の理解の助けとなる内容である。

試しに本のカバーをはずしてみると第三帝国と深く結びついた架空の組織のリストがずらり並んでいる。そのトップに来るのが仮面ライダーのショッカー、また宇宙戦艦ヤマトのガミラス帝国なども第三帝国がイメージされている。なるほど今日のヒーローの敵役の組織のスタイルは第三帝国をモチーフにしたものが多いというのもうなづける。テレビ番組などフィクションを見る子供たちは無意識のうちに悪役=ナチと刷り込まれてしまうに違いない。入門編としての本書のまとめ方はなかなかユニークであり、各テーマに関してプレゼンテーションを受けているような錯覚さえ感じる。

第5章 第三帝国の伝説には少々怪しげな話題が取り上げられている。そのなかでNo.096 第三帝国と占星術の項にノストラダムスの名前が見出される。チャートを見ると、クラフトが連合国に対して予言詩を偽造して散布したのに対抗してウォールも偽造予言詩を散布したことになっている。コラムには「ノストラダムスの『百詩篇』」が載っているが特に目新しい記事はない。入門書ということもあり、内容は他の関連書の切り張りを丁寧に整理したものでしかない。ノストラダムスについてテーマごとにこうした整理を行うのも面白いかもしれない。

王位戦第六局は穴熊vs銀冠へ2008/09/09 23:43

http://www.tokyo-np.co.jp/igo-shogi/49oui/
早いものでもう第六局である。ここまで深浦が羽生を3勝2敗と追い込んでいるがこの先手番を落とすと最終局の振り駒が防衛の鍵の握ることになる。羽生の作戦が注目されたが、序盤は後手ウソ矢倉に組もうとするが深浦は機敏に▲5七角と配置して2筋で角交換を果たす。その代償として後手は銀冠に組むが2四の歩をかすめ取る狙いで角の打ち合いになると若干先手を持ちたい感じである。ここまではよく見る形でアマチュアが指しても変わり映えがしない。羽生の工夫は後手の飛先不突きで5筋から攻め込もうというもの。対して深浦は強気に飛車をぶつけていく。

後手が飛車交換を避けて歩を謝ると今度は先手は穴熊を目指す。しかしここでの穴熊はちょっと指しづらい。本譜のように59手目▲9八香と上がったタイミングで△8五桂と跳ねられて要の銀を8六に上がらざるを得ない。63手目▲9九玉と潜ったところでは確かに玉は戦場から遠くなったが全然固くなっていない。先手の金銀はバラバラである。しかも9筋の突き合いがあるため端攻めを狙われてしまう。どう見ても先手が好んで採る作戦とも思えないが指しているのは無類の研究家の深浦。何か秘かな狙いがあるのかもしれない。封じ手の局面は先手が▲8八金と穴熊のハッチを閉めたところ。まだまだ自陣の整備をしたいところだが後手陣はもう待つ手はない。

封じ手はここが戦機とばかり当然攻めの手を狙いたい。すぐの△7五歩は銀交換後に4一の割打ちの傷が気になる。よって一旦は△5一飛と引いて傷を消すのと9筋の香車にヒモをつける手が有力である。後手にうまい攻めがあると一気に形勢が傾くこともあり得る。ここ数手が大きな勝負どころであろう。