別冊宝島 羽生善治考える力2009/12/14 23:40

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4796674152.html
世に羽生本があふれんばかりに出版されている。なかには羽生というビッグネームにあやかって便乗したものも見受けられる。本書の110-111頁には「羽生善治関連書籍」がリストアップされており資料的価値も高い。自分も七冠達成時の関連本を買い漁ったことがある。これだけ本が出ているということは、羽生自身しょっちゅう取材を受けて何かしら話をしているはずだが、よくネタが尽きないものと感心する。今回紹介する別冊宝島の羽生本は、しっかりした将棋ライターが執筆陣に加わっており、従来とは違った新味を出そうと工夫の跡が見える。一般向けのムックということで棋譜はもちろん図面もほとんど載せていない。将棋を知らない人でも十分楽しめる構成となっている。

羽生の凄さはタイトル獲得数などの記録はもちろんのこと、一般の人でもきちんと理解できるように将棋に対する自分の考えを論理的に表現できることにある。その感性は39歳になってますます磨かれている。そうした特別の嗅覚が将棋の盤面を通じて他の棋士の見えない世界を垣間見ているのかもしれない。本来であればプロ棋士は序盤、中盤、終盤の力にそんなに差があるものではない。羽生も述べているように、これという正解手が存在しない難しい局面をどう捉えるかが勝負の趨勢なのだろう。羽生はそこをどう判断しているのだろう。「1つではない。色々な要素を、複合的に判断しているとは思う。それは言葉ではなかなか説明しづらいですが、イメージの部分もある。(中略)最終的には「勘」や「好み」で選ぶこともあります。」(同書34頁)

あの論理明晰の羽生が何とか表現しようとしたのは言語化できないイメージ、おそらく右脳の活性化による自己の極限の感性ということになろうか。将棋以外のビジネスの場においても、例えばプレゼンする際に言語化して見える形にすることが多いだろう。それはトレーニングをつめば一応誰にでもできる。けれども本当に大切なのは知識と経験に裏付けされた勘やひらめきなのである。日本の教育もこうした羽生語録を参考してカリキュラムを検討してはどうだろう。