昨年に続いてプロの指導対局を指した2009/06/01 23:40

日本将棋連盟は将棋という日本文化の普及活動を事業の一環に置いている。棋士を派遣するには多額のコストが生じるので、一般の将棋ファンがプロの指導を受ける機会も少なかった。これまでも将棋同好会にプロ棋士を呼んだことはあったが、連盟を通さず個人的につてを頼って交渉し謝礼を支払っていた。名人戦が毎日と朝日の共催になったとき、主催の契約と一緒に将棋普及金の名目でお金が支払われたはずだ。今回、連盟の支部へのプロ棋士の派遣プロジェクトはこうした資金によって賄われている。昨年も同時期に石田九段が来てくださり、将棋ファンとしては大変ありがたいことである。今年は連盟から若手の伊藤真吾四段が指導に訪れ、全部で12局をお願いした。伊藤プロは奨励会の三段リーグで次点2回を取ってフリークラスの四段になった。1時半からスタートで6時までほとんど休憩もなく精力的に指導を頂いた。

5面指しで会員が6枚落ち、2枚落ち、飛車落ち、ちょっと無謀な香落ちで次々挑むが、さすがにプロの指し回しは丁寧で、お一人が2枚で勝っただけで後は惜敗が続く。最後に後輩と自分が角落ちで挑戦して2勝し、トータル下手の3勝9敗で終了。今回のテーマは「棋は対話」、将棋盤を通じてプロと会話をする、それと角落ちのハンディをできるだけ保つことを念頭に置いた。指導対局終了後は近くのイタリアン・レストランへ移って食事会。将棋談義に花が咲く。伊藤プロとは以前にも面識があり、いろいろな話を聞いたことがあったが、おぼろげに覚えてくれていたのは嬉しい。まあ社交辞令かもしれないが。今思うと、いくら年齢が若いとはいえプロの先生に対して相当失礼なことを言ってしまった気がしてならない。それでも受け答えは誠実そのもの、礼儀正しい青年という以前の印象は変わらない。

将棋のほうは上手が序盤早めに△4二玉と上がったので中飛車から銀冠に囲う。途中1筋の端攻めがわかりやすいので指しやすさを感じていた。図は上手が揺さぶりをかけて81手目△6六銀と角を殺したところ。これは読み筋で▲7四歩が狙いの一着。△同銀なら▲6四角と出て桂取りになり、打った銀が空振りとなる。以下、△7五銀▲7三歩成△5二銀▲1三歩成となって優勢を意識した。以下96手で勝利、わりとうまく指せた一局であった。

名人戦第五局は序盤から乱戦に突入した2009/06/02 23:44

http://www.asahi.com/shougi/news/TKY200906020036.html
本日より名人戦第五局が始まった。ここのところタイトル戦がなかったので久しぶりの感じがする。後手番4連勝の2-2で迎えた羽生vs郷田の名勝負も大きな勝負どころを迎えている。本局を制した者が名人位まであと1勝となるのだ。昼休みに朝日のサイトを見ると羽生が横歩取りに誘導していたが郷田は8筋に歩を打たずに▲5八玉の形になっていた。羽生の8五飛システムを避ける意味合いもあっただろう。ところが序盤羽生が△4四角と打って風雲急を告げた。この手は飛車取りと8八の銀を狙っており、一瞬後手の技が決まったかに見えるが先手も返し技の▲2四飛がある。

27手目▲5五角が郷田の妥協なき空中殺法の驚愕手。ここから一気に最終盤へと突入していく。31手目▲5三角成と馬を作った先手がうまくいったようにも見えるが、後手も△2七飛と打ち返して難解な形勢。封じ手は飛車成を無視して郷田が33手目▲2三歩と打ったところ。ここで羽生は異例の大長考に入り、2時間42分考えた末封じ手を行った。確かにこの局面は手が広くて、読んでも読み切れないところだが、一手が勝敗に直結だけに慎重にならざるを得ない。大事なタイトル戦でこれほどお互い突っ張った展開で1日目から最終盤に投入したのは記憶にない。これだけ派手な手の応酬があったのだから実際のところ形勢に差がついているはず。

封じ手予想は・・・一番自然なのは△2九飛成だが▲2二歩成が来る。△4二金の受けにはすかさず角を切って王手飛車が見える。詰みのありなしを読み切らないと指せない局面である。ここに来てはもう穏やかな展開になることはない。明日は早い時間に終局するのではないだろうか。

第67期名人戦第五局は郷田が勝ち3-2に2009/06/03 23:05

http://www.asahi.com/shougi/
http://mainichi.jp/enta/shougi/
帰宅してネットに接続してみたところ、ちょうど毎日のサイトに郷田勝ちの速報が入っていた。これで3-2と星ひとつ先行し、悲願の名人位奪取まであと1勝と迫った。投了図を見ると、羽生陣が無残な形で残ってしまっている。まだ玉が詰む段階にはないが、攻防とも見込みがないと観念したか、囲碁でいう中押しの感じで羽生が投了した。名人戦という大舞台でこれほど大差の将棋が現れるとはちょっと珍しい。途中千日手模様の局面も現れたが、郷田としてはここまで来てクリンチで逃れられてはかなわない。逆に羽生の動きを二枚の馬で押さえながら手堅く押し切った恰好である。羽生も自陣に手を入れて頑張るがばん回まで至らなかった。

封じ手は予想外の△5二歩。もちろんこの手の可能性も考えていたが、自らの作戦のまずさを認めるような屈伏なのであり得ない感じがしたがこの辺が羽生の柔軟なところだろう。自然な△2九飛成ではすぐ負けになってしまうので早くも粘りに出た手ともいえる。郷田の感想にもあるように、馬ができたところですでに先手が若干良いようだ。その後は羽生の涙の辛抱の手順が続いて一気の決着とはならなかったが、ずっと後手がじり貧、先手優勢の局面が続く。夕食休憩後羽生はようやく居玉を解消して92手目△6一玉から玉形を整えるが、ここでは先手が圧倒的に優勢で郷田は手堅い指し手で羽生マジックを許さなかった。じわじわ押されてお荷物の生飛車が銀との交換となりここで勝負あった。

郷田の勝因は、序盤からの長考で積極的に良さを求める、自身の持ち味がいいほうに実を結んだことに尽きる。目の前に名人奪取というビッグチャンスを迎えたが、ここで浮足立つことがなければ可能性は十分とみる。あとは逸る気を押さえる自分との戦いといえるかもしれない。対して羽生は前期ようやく取り戻したばかりの名人を失冠する大ピンチに追い込まれている。絶対に落とせない次の先手番は最も得意とする相矢倉になるのではないか。

将棋世界2009年7月号を読んだ2009/06/04 23:38

将棋世界7月号が発売されている。発行は日本将棋連盟なのだが販売は毎日コミュニケーションズになっている。最近は将棋世界の発行部数が増えているという。これは毎コミの販売による販路の拡大と編集部による企画の面白さによるのではないかと思う。タイトル戦は名人戦の第2局と第3局の観戦記で、谷川、高橋というA級棋士でどちらも名人戦の大舞台の経験者という重厚な布陣を敷いた。企画モノとしては「関西若手四強を語る」、若くて有望な棋士を将棋ファンにアピールしていこうとの意図が感じられる。なかでも稲葉はあと一歩でタイトル戦の挑戦者というチャンスだったが惜しかった。そして「橋本・村山の順位戦大予想!」の恒例企画。本来プロがこういう予想をするのは味が悪いせいか本音は隠されている。

ちなみに自分もここで予想しておこう。まずA級は◎木村○羽生か郷田、B級1組は◎渡辺○久保、B級2組◎橋本○阿久津、C級1組は◎宮田○広瀬、C級2組は◎豊島○佐藤天▲稲葉×糸谷とこんなところだろうか。通算勝率から見るとどうしても若手中心となってしまう。まあ順位戦はこれまでも様々なドラマが誕生してきたし、ベテランだって序盤に白星が集まれば十分にチャンスがでてくる。予想通りいかないところに面白さがある。最終回となった「指し込み2番勝負!!」はここにきて事件が起きた。というか編集部の思惑通りに事件を起こしたというべきか。鈴木八段が新人の西川四段を香落ち、角落ちと圧倒。この結果自体はそれほど驚くこともない。昔A級vs若手四段の角落ち戦があったが大山十五世が小林四段に一発入れたのを思い出す。

若手からみると過激企画の犠牲者が出てしまったということになろう。もとよりプロ同士の角落ちなんて技術的にいえば問題にならない。しかしプロといえど生身の人間なのである。プレッシャーのかかる条件がそろえば力を発揮できないことだってある。西川は四段になったばかりで、対局数もまだ一ケタ、始めての企画もの、慣れない関東での対局、早指しで強気な振り飛車党の鈴木が相手と嫌な条件がそろっていた。だからといってプロとしては弁解できるものではない。本人は相当辛いはずだが、その分読者受けしていると思えば雑誌の売り上げに貢献したことになろう。今後公式戦で結果を出せばいいのだから。

謎解き超常現象2009/06/07 06:44

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4883926869.html
ASIOS 謎解き 超常現象 彩図社 2009年5月 を入手した。著者のASIOSとは超常現象の懐疑的調査のための会とある。最後の著者紹介を見ると、と学会のメンバーも何人か含まれている。42の伝説を収録しているため各々のテーマにそれほどの深みはないが、章末に参考文献が挙げられており、さらに追及したい人のためのガイドブックになる。「はじめに」でASIOS会長の本城氏が書いている。「(海外での超常現象の調査をしている人たちの)誇張を排し、証拠をもとに真相に迫っていくその真摯な姿は、私に「これだ!」と思わせるに十分なもの」だったことから自分で超常現象を深く調べるようになった。懐疑とは、本当にそれが事実であるか、注意深く、客観的に立証を求めていく態度であり、ろくな調査なしに頭ごなしに否定しないのスタンスは共感できる。

自分も子供の頃はUFOとか超能力とか心霊写真とかテレビの特番を見るのが好きだった。確かに非現実的な世界の中に未知なる現象の存在を見るというのは科学で解明されていない謎としてロマンがある。テレビや子供向けの本などは作り手の作為がたっぷり盛り込まれており、どこまでが事実でどこまでが誇張されているか正しく判断できない。単なる話のタネであれば実害もないのだが、そういう疑似情報を子供の頃に深層に刷り込まれるとだんだん事実と虚構との区別がつかなくなってしまう。それが商業的なニーズと結びつくとオカルトを扱った雑誌が次々と登場し、内容も徐々にエスカレートしていく。手元には子供の頃に入手した雑誌、「UFOと宇宙」「エニグマ」「ムー」「トワイライトゾーン」「マヤ」「ワンダーライフ」他が残っている。

この本で取り上げられたテーマは昔ながらの伝説として語り継がれているものもある。予言に関しては最近の話題も盛り込まれている。本ブログで「ノストラダムス、2012年の預言」というテレビ番組のことを書いたらキーワード検索で一時的にアクセス数が増えた。そもそもマヤ暦のサイクルに過ぎない2012年が終末予言と関連付けて登場し始めたのは1999年の数年前だったはず。そこにフォトン・ベルト云々といった尾ひれがつくのはごく最近になってからのことだ。こういったニューエイジ思想は一部のノストラダムス本にも取り込まれている。『ノストラダムス新世紀予言』267頁には、銀河が星のリボン、フォトン・ベルトに突入するという予言絵画が紹介されている。22頁のカラー原画を見ると、単に水たまりで戯れるザリガニにしか見えないのだが・・・