「忘れえぬロシア」を鑑賞した ― 2009/06/08 23:30

日曜日は午後から渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで国立トレチャコフ美術館展「忘れえぬロシア」を見に行った。前々から行こうと思っているうちにようやく最終日に見ることができた。展示されている絵のほとんどが19世紀の後半から20世紀の初めにかけて描かれたものである。第1章抒情的リアリズムから社会的リアリズムへ、第2章日常の情景、第3章リアリズムにおけるロマン主義、第4章肖像画、第5章外光派から印象派へ、とテーマに分かれている。そして展示の顔となっているのがイワン・クラムスコイの「忘れえぬ女」1883年である。美術に関してはまったくの素人であるが、リアリズムの潮流はフランスの革命後の不満が現実へと目を向けさせたことによる。
「農奴解放令(1861年)からロシア革命(1917年)にかけての時代は、ロシア社会の転換期であると同時に、絵画動向でもリアリズムから印象主義へ至る転換期であった」とMAINICHI WEEKLYの記事にある。ロシアの風景や農民の姿は牧歌的で北海道の広大な自然を彷彿させる。思わず風景のなかに引きずり込まれてしまう程の写実の迫力がある。通常左脳で考える論理ではなく、強烈なイメージを喚起させて右脳を刺激してくれる。美術館の名画を目に焼き付けることで普段の世俗にまみれた情景から解放される感じもする。そのためかBunkamuraの美術関係のブックストアで思わず、西野嘉章著『西洋美術書誌考』東京大学出版会 2009年 を購入してしまった。価格は8800円+税 とちょっとお高いが面白そうである。
帰りに渋谷のビッグカメラでモバイルPCを購入した。店頭でいろいろ迷った挙句DELLを選択。(型式C209X-C(BK))決め手は大きさでもちろん画面に見づらさはあるが持ち歩きを優先した。イーモバイルといったネット接続契約とのセットがあったが長い目で結構割高なのでやめた。支払いのときカードを提示して、今まで貯めたポイントが失効になっていると店員から聞かされたときにはがっかり。たった2年でせっかくのポイントがゼロとは・・・。帰宅後はせっせとセットアップ、ようやく念願のモバイルを手にした嬉しさが込み上げてきた。
「農奴解放令(1861年)からロシア革命(1917年)にかけての時代は、ロシア社会の転換期であると同時に、絵画動向でもリアリズムから印象主義へ至る転換期であった」とMAINICHI WEEKLYの記事にある。ロシアの風景や農民の姿は牧歌的で北海道の広大な自然を彷彿させる。思わず風景のなかに引きずり込まれてしまう程の写実の迫力がある。通常左脳で考える論理ではなく、強烈なイメージを喚起させて右脳を刺激してくれる。美術館の名画を目に焼き付けることで普段の世俗にまみれた情景から解放される感じもする。そのためかBunkamuraの美術関係のブックストアで思わず、西野嘉章著『西洋美術書誌考』東京大学出版会 2009年 を購入してしまった。価格は8800円+税 とちょっとお高いが面白そうである。
帰りに渋谷のビッグカメラでモバイルPCを購入した。店頭でいろいろ迷った挙句DELLを選択。(型式C209X-C(BK))決め手は大きさでもちろん画面に見づらさはあるが持ち歩きを優先した。イーモバイルといったネット接続契約とのセットがあったが長い目で結構割高なのでやめた。支払いのときカードを提示して、今まで貯めたポイントが失効になっていると店員から聞かされたときにはがっかり。たった2年でせっかくのポイントがゼロとは・・・。帰宅後はせっせとセットアップ、ようやく念願のモバイルを手にした嬉しさが込み上げてきた。
第80期棋聖戦第一局は羽生が後手急戦矢倉で1勝目 ― 2009/06/09 23:35

http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/
棋聖戦第一局は充実したネット中継が行われる。梅田氏のリアルタイム観戦記の第三弾もある。しかしながら生憎日中は仕事もありパソコンの前で観戦するわけにはいかない。帰宅して朝日のウェブでニュースを眺めていたらすでに羽生勝ちの速報が入っていた。早速上のサイトにアクセスし、まずは棋譜と解説に目を通してみた。その後棋譜をkifu for Windowsに登録し今度は全体の流れを見るべく並べてみる。将棋の内容が大体頭に入ったところで梅田氏の観戦記を読んだ。相変わらずいろんなネタを仕込んで短時間のなかで上手に料理している。しかし将棋の内容は終盤のねじり合いにはならず木村の完敗。やはり将棋の内容が盛り上がらないと観戦記のいい素材に成り得ない。
将棋のほうは木村先手で後手の羽生が矢倉を受けた。がっちりした相矢倉にはならず先の竜王戦第七局で渡辺の指した新手△5五歩からの歩交換から△3三銀と上がる形を選択する。ひょっとすると羽生は梅田氏のリアルタイム観戦記を意識して、豊富なバックグランドのある戦法を採用したのではないか。羽生は先手を持って経験済みだし、木村も『将棋世界』3月号の「これで矢倉は指せる」で解説している。果たして3月号の156頁「私見では、手順中の▲7九角で▲5七銀上(L図)はあったと思う」、驚くことにこの研究が本局にそのまま出現した。羽生は5筋、6筋の位取りを許したが48手目△1二香と上がり渡辺流の穴熊に囲う。たぶん模様からすれば先手が若干指しやすいのだろうが、持ち時間が短く秒読み勝負になれば実戦的には後手が勝ちやすいか。
上図の93手目▲9七玉で木村ワールド突入であるが、後は幾ばくもなく先手の投了となった。木村の感性は普通のプロ棋士とはちょっと異質な感じがする。その感性でもってこれまで7割近い勝率を挙げてきたのだが、本局は後手が一方的に攻める形になり「千駄ヶ谷の受け師」の力を持ってしても受け切れなかった。事前の木村のインタビューにあった、まずは1勝が目標というのも次局以降に持ち越しとなった。次は木村の後手番なので一手損角換わりが有力である。
棋聖戦第一局は充実したネット中継が行われる。梅田氏のリアルタイム観戦記の第三弾もある。しかしながら生憎日中は仕事もありパソコンの前で観戦するわけにはいかない。帰宅して朝日のウェブでニュースを眺めていたらすでに羽生勝ちの速報が入っていた。早速上のサイトにアクセスし、まずは棋譜と解説に目を通してみた。その後棋譜をkifu for Windowsに登録し今度は全体の流れを見るべく並べてみる。将棋の内容が大体頭に入ったところで梅田氏の観戦記を読んだ。相変わらずいろんなネタを仕込んで短時間のなかで上手に料理している。しかし将棋の内容は終盤のねじり合いにはならず木村の完敗。やはり将棋の内容が盛り上がらないと観戦記のいい素材に成り得ない。
将棋のほうは木村先手で後手の羽生が矢倉を受けた。がっちりした相矢倉にはならず先の竜王戦第七局で渡辺の指した新手△5五歩からの歩交換から△3三銀と上がる形を選択する。ひょっとすると羽生は梅田氏のリアルタイム観戦記を意識して、豊富なバックグランドのある戦法を採用したのではないか。羽生は先手を持って経験済みだし、木村も『将棋世界』3月号の「これで矢倉は指せる」で解説している。果たして3月号の156頁「私見では、手順中の▲7九角で▲5七銀上(L図)はあったと思う」、驚くことにこの研究が本局にそのまま出現した。羽生は5筋、6筋の位取りを許したが48手目△1二香と上がり渡辺流の穴熊に囲う。たぶん模様からすれば先手が若干指しやすいのだろうが、持ち時間が短く秒読み勝負になれば実戦的には後手が勝ちやすいか。
上図の93手目▲9七玉で木村ワールド突入であるが、後は幾ばくもなく先手の投了となった。木村の感性は普通のプロ棋士とはちょっと異質な感じがする。その感性でもってこれまで7割近い勝率を挙げてきたのだが、本局は後手が一方的に攻める形になり「千駄ヶ谷の受け師」の力を持ってしても受け切れなかった。事前の木村のインタビューにあった、まずは1勝が目標というのも次局以降に持ち越しとなった。次は木村の後手番なので一手損角換わりが有力である。
ワインロードのランナーたち ― 2009/06/10 23:46

亀地宏 ワインロ-ドのランナ-たち ― 十勝池田・自治と心のまちづくり 公人社 1992年10月 を読んだ。出版社の2004年3月の出版目録を見ると既刊のリストに載っているが、もしかするとすでに絶版かもしれない。略歴によると、亀地氏は地方自治をテーマとしたノンフィクションを何冊も著しているフリージャーナリストとある。「ワインをつくり、ワインのまち・池田町をつくりあげた人びとの苦闘の歴史を描き、自治を貫くとはどうすることかを考える。池田町に出会い、見守りつづけてきた著者が、まちづくりの先駆者たちの疾走を描く!」本書の内容を一言で言い尽くしている。そもそもこの本を手に取ったのは池田町のことを調査しようと図書館で検索をかけたところヒットした。先祖が内地からこの地に入植して移り住んだと聞いていたので町の歴史を知りたくなったのである。
実は子供のころ池田町の近隣の町に住んでいたことがある。当時十勝ワインの名くらいは耳にしていたはずだが、その歴史についてはまったく知らなかった。町役場という公営の立場で、ワイン作りを試行錯誤のなか、もがきながら進めていき、現在ではワインの町として確固たる地位を確立した。その苦難の道のりについては、町長、職員、関係への綿密な取材に基づき、元新聞記者らしく手堅い文章で描かれている。取材と執筆に数年かかったというが完成度が高く、さながらプロジェクトXのドキュメンタリを見ているような錯覚を受ける。素人同然の職員が自分たちで考え、議論し、繰り返し調査を行うことで可能性を探る。リーダーである町長は職員が持っている夢とロマンを引き出して見える形にする。そうすることで職員が自分の仕事に自信と誇りを持つようになる。
新たな事業を暗中模索のなかで実現に向かって突き進んでいくというのは共感するところが多い。後半の部分では陽の当たる部分だけではなく陰の部分にもするどくメスを入れているが、平成4年までのもの。本が出版されてもう17年も経っている。その後の池田町の地方自治はどのように歩んでいったのだろうか。文中で紹介されている遠い縁者もいるようだし一度は訪れてみたい。
実は子供のころ池田町の近隣の町に住んでいたことがある。当時十勝ワインの名くらいは耳にしていたはずだが、その歴史についてはまったく知らなかった。町役場という公営の立場で、ワイン作りを試行錯誤のなか、もがきながら進めていき、現在ではワインの町として確固たる地位を確立した。その苦難の道のりについては、町長、職員、関係への綿密な取材に基づき、元新聞記者らしく手堅い文章で描かれている。取材と執筆に数年かかったというが完成度が高く、さながらプロジェクトXのドキュメンタリを見ているような錯覚を受ける。素人同然の職員が自分たちで考え、議論し、繰り返し調査を行うことで可能性を探る。リーダーである町長は職員が持っている夢とロマンを引き出して見える形にする。そうすることで職員が自分の仕事に自信と誇りを持つようになる。
新たな事業を暗中模索のなかで実現に向かって突き進んでいくというのは共感するところが多い。後半の部分では陽の当たる部分だけではなく陰の部分にもするどくメスを入れているが、平成4年までのもの。本が出版されてもう17年も経っている。その後の池田町の地方自治はどのように歩んでいったのだろうか。文中で紹介されている遠い縁者もいるようだし一度は訪れてみたい。
リー・マッキャンのノストラダムス本 ― 2009/06/11 23:56

http://books.google.co.jp/books?id=FHgSofFuZtoC
http://www.sacred-texts.com/nos/mst/index.htm
1941年ニューヨークで1冊のノストラダムス本が刊行された。リー・マッキャンLee McCannの"Nostradamus: The man who saw through time"(ノストラダムス、時を超えて見た男)で421頁の大著である。手元に1985年にFarrar Straus Girouxより出版された再版本があるが、少し前に初版本を入手してみた。価格は1500円ほど。両者を比べてみたところ、頁の割り振りなどは同じである。この本はなぜか根強い人気があるようでなんと2008年にも再版されている。或いはウェブ上でテキストとして読むことができる。カバーの紹介を読むと、ノストラダムスが1999年に至るまで全世界の重大事件を予言したとある。「マッキャンの見事な翻訳はそれまでの古い四行詩の英訳に見られない注意深さと正確さを兼ね備えている。英語で書かれた最初で唯一のノストラダムスの伝記」と評している。
マッキャン女史はフランス語とラテン語の研究者で、長年にわたってノストラダムスの人物像に関心を持ち研究を続けてきた。その成果が本書である。挿絵のリストを見ると英語圏で初めて紹介されたであろう貴重なものが載っている。当時は挿絵の写真のページに限ってコーティングされた紙を用いていた。内容は、第1部がフィクションまじりの伝記だが主要なポイントは押さえてある。そのなかに四行詩がところどころ挿入されている。ノストラダムスと弟子シャヴィニーとの対話についてはまったくの物語だが、この手法は五島勉氏の『ノストラダムスの大予言』を彷彿させる。あるいは現代版では藤本ひとみ氏の小説『預言者ノストラダムス』に通じるものがあるかもしれない。第2部は予言解釈篇で四行詩の英訳と解釈が過去、現在、未来へと綿々と続いている。
マッキャンの解釈で後のビリーバーたちに最も影響を与えたのが412頁の百詩篇5-25の注釈であろう。「教会の支配はアラブに対して海のそばで屈服する、火星、太陽、金星が獅子座で合となるとき」この合の日付は1987年8月21日である。五島氏の『ノストラダムスの大予言日本編』やアルガイヤーの『1987年悪魔のシナリオ』などで言及され、第三次大戦勃発の日付と見なされたこともあった。マッキャンのノストラダムス本は読み物としては楽しめるが、語義の注釈もないしソースとなる参考文献も挙げられていないので研究書としては不備がある。
http://www.sacred-texts.com/nos/mst/index.htm
1941年ニューヨークで1冊のノストラダムス本が刊行された。リー・マッキャンLee McCannの"Nostradamus: The man who saw through time"(ノストラダムス、時を超えて見た男)で421頁の大著である。手元に1985年にFarrar Straus Girouxより出版された再版本があるが、少し前に初版本を入手してみた。価格は1500円ほど。両者を比べてみたところ、頁の割り振りなどは同じである。この本はなぜか根強い人気があるようでなんと2008年にも再版されている。或いはウェブ上でテキストとして読むことができる。カバーの紹介を読むと、ノストラダムスが1999年に至るまで全世界の重大事件を予言したとある。「マッキャンの見事な翻訳はそれまでの古い四行詩の英訳に見られない注意深さと正確さを兼ね備えている。英語で書かれた最初で唯一のノストラダムスの伝記」と評している。
マッキャン女史はフランス語とラテン語の研究者で、長年にわたってノストラダムスの人物像に関心を持ち研究を続けてきた。その成果が本書である。挿絵のリストを見ると英語圏で初めて紹介されたであろう貴重なものが載っている。当時は挿絵の写真のページに限ってコーティングされた紙を用いていた。内容は、第1部がフィクションまじりの伝記だが主要なポイントは押さえてある。そのなかに四行詩がところどころ挿入されている。ノストラダムスと弟子シャヴィニーとの対話についてはまったくの物語だが、この手法は五島勉氏の『ノストラダムスの大予言』を彷彿させる。あるいは現代版では藤本ひとみ氏の小説『預言者ノストラダムス』に通じるものがあるかもしれない。第2部は予言解釈篇で四行詩の英訳と解釈が過去、現在、未来へと綿々と続いている。
マッキャンの解釈で後のビリーバーたちに最も影響を与えたのが412頁の百詩篇5-25の注釈であろう。「教会の支配はアラブに対して海のそばで屈服する、火星、太陽、金星が獅子座で合となるとき」この合の日付は1987年8月21日である。五島氏の『ノストラダムスの大予言日本編』やアルガイヤーの『1987年悪魔のシナリオ』などで言及され、第三次大戦勃発の日付と見なされたこともあった。マッキャンのノストラダムス本は読み物としては楽しめるが、語義の注釈もないしソースとなる参考文献も挙げられていないので研究書としては不備がある。
名人戦第六局は郷田意表の陽動振り飛車に ― 2009/06/15 21:49

http://www.asahi.com/shougi/
郷田が3-2と初の名人位奪取に王手をかけた名人戦第六局の一日目が終了した。郷田からすればこの一局を勝てばとの必勝態勢で臨みたいところだ。対して百戦錬磨の羽生はカド番とはいえこれまで通り自然体で対局に向うことだろう。こうした心理戦もタイトル戦の後半では見どころとなる。羽生は予想通り序盤は矢倉を目指す。もっとも得意とする戦法であるし郷田に対して勝率が抜群であるからごく自然な展開である。対して郷田はがっちりとした相矢倉を避けて陽動振り飛車の作戦を選んだ。これはどういった意図があるのだろう。羽生が矢倉を目指すのはかなり高い確率で予想できる。羽生に対して相矢倉では分が悪かったが第2局に後手番で勝利したことで一つ課題をクリアした。
先手矢倉に対する回答として急戦矢倉に脚光が当たっているが、もうひとつ陽動振り飛車も升田九段の愛用した対抗策である。郷田があと一つ余裕のある状況であえてこの戦法を選んだのは事前研究と羽生の意表を突くためではないか。現代では陽動振り飛車に対して居飛車穴熊に囲う戦術が発達しており、振り飛車側の苦戦が明らかになっている。そこを敢えて踏み込んだ郷田に何か秘策はあるのだろうか。封じ手までの序盤を見る限りどこに後手の工夫があるかまだわからない。もちろん大長考のなかではすでに幾多の局面で戦いが始まっている。この戦法を指す上でのポイントはいかに居飛車穴熊に組ませないかにある。序盤の△8四歩を生かして銀冠に組む指し方も多いが、そうすると居飛車も万全に玉を固めることができる。
封じ手の局面は、先手玉が後手の角の直射に入って気持ち悪いところ。ここで香車を上がるのは△8五桂と跳ねる手が気になる。直感的には▲3七桂と跳ねて後手の4五に伸びた歩を狙ってみたい。これに対し△4四銀なら一旦▲1六歩と端を突いておき、△1四歩と受けてくれれば▲9八香と囲ってみたい。明日はどういった展開になるか楽しみである。
郷田が3-2と初の名人位奪取に王手をかけた名人戦第六局の一日目が終了した。郷田からすればこの一局を勝てばとの必勝態勢で臨みたいところだ。対して百戦錬磨の羽生はカド番とはいえこれまで通り自然体で対局に向うことだろう。こうした心理戦もタイトル戦の後半では見どころとなる。羽生は予想通り序盤は矢倉を目指す。もっとも得意とする戦法であるし郷田に対して勝率が抜群であるからごく自然な展開である。対して郷田はがっちりとした相矢倉を避けて陽動振り飛車の作戦を選んだ。これはどういった意図があるのだろう。羽生が矢倉を目指すのはかなり高い確率で予想できる。羽生に対して相矢倉では分が悪かったが第2局に後手番で勝利したことで一つ課題をクリアした。
先手矢倉に対する回答として急戦矢倉に脚光が当たっているが、もうひとつ陽動振り飛車も升田九段の愛用した対抗策である。郷田があと一つ余裕のある状況であえてこの戦法を選んだのは事前研究と羽生の意表を突くためではないか。現代では陽動振り飛車に対して居飛車穴熊に囲う戦術が発達しており、振り飛車側の苦戦が明らかになっている。そこを敢えて踏み込んだ郷田に何か秘策はあるのだろうか。封じ手までの序盤を見る限りどこに後手の工夫があるかまだわからない。もちろん大長考のなかではすでに幾多の局面で戦いが始まっている。この戦法を指す上でのポイントはいかに居飛車穴熊に組ませないかにある。序盤の△8四歩を生かして銀冠に組む指し方も多いが、そうすると居飛車も万全に玉を固めることができる。
封じ手の局面は、先手玉が後手の角の直射に入って気持ち悪いところ。ここで香車を上がるのは△8五桂と跳ねる手が気になる。直感的には▲3七桂と跳ねて後手の4五に伸びた歩を狙ってみたい。これに対し△4四銀なら一旦▲1六歩と端を突いておき、△1四歩と受けてくれれば▲9八香と囲ってみたい。明日はどういった展開になるか楽しみである。
最近のコメント