コリン・ウィルソン『オカルト』に見るノストラダムス2008/05/25 23:09

コリン・ウィルソンの『オカルト』新潮社版が出版されたのは1973年である。当時は上巻、下巻と分かれて二分冊になっていた。1985年には平河出版社より一冊にして復刊されている。1995年には河出文庫より上下が出版されたがすでに絶版。原著は1970年の刊行である。当時は科学では解明できない「超自然的な」ものへの関心が高まりオカルトブームが起こっていた。ウィルソンは魔術、テレパシー、未来予知などのテーマを豊富な論証で広く浅く肯定的に扱っている。第二部の魔術の歴史で、錬金術の世紀において最大の「オカルト」能力を有している人物としてノストラダムスを取り上げている。通俗的な伝記を概説した後に主にジェームズ・レイヴァーの著作を引きながら四行詩について踏み込んだ解説を行っている。

たとえば百詩篇二巻24番のヒスターが出てくる四行詩を、ヒトラーと結びつける解釈を提示しながらも、ロバート・グレイヴズの解釈、16世紀の事件を結びつけたものも紹介して客観性を保っている。このように読む者の受け取り方で様々な解釈が可能になる予言のスタイルについて、やや明確さに欠けると認めている。一方、有名なヴァレンンヌの詩など、偶然として否定してしまうには驚くべき的中があるとして、フランス革命に関するとされる四行詩をこと細かく考察している。(現代の実証的研究では否定的である)最後に有名な十巻72番を登場させる。その注釈のなかで「アンゴルモワの大王とは殆ど確実にジンギス汗のことである。・・・アナグラムの一つで綴りの順序を変えると、蒙古人となる。」とある。

この特異な注釈は、『オカルト』を引く形で五島氏の1979年『大予言Ⅱ』に紹介された後、日本の研究家の間に急速に浸透していった。英語圏では1961年のエドガー・レオニの大著で言及されたのが最初か。その後はエリカ・チータムの本に引き継がれてアジアのアンテクリストたる「モンゴルの王」と英訳された。日本ではチーサム経由で金森誠也氏が1981年『洪水大予言』216頁などに紹介している。一時期日本で一番人気だったこのモンゴル説はフランスの研究家のなかで相手にされることはなかった。