ノストラダムスのペストの治療法2008/11/18 23:46

ノストラダムスは予言者である以前に当時ヨーロッパで流行していたペストの治療に当たっていた医師である。『化粧品とジャム論』第一部第8章にはノストラダムスが1546年にエクサンプロヴァンスで住民の治療の模様が略述されている。そのタイトルというか要約は「万能芳香パウダーを作るための最良の基材の調合法。異様なにおいではないが、甘美な快さを回復させて長期間に渡りペストに対する力強い特効薬となる」1556年リヨン版48頁、1557年アントウェルペン版9頁。1998年『ノストラダムスの万能薬』58頁「万能芳香パウダーを作るための最良の基材の調合法」、2000年『ノストラダムスとルネサンス』246頁等を参照。ノストラダムスが医師としてペストの治療に従事していたことは疑う余地がない。それではいかなる治療を施していたのだろう。

ミシェル・C・トゥシャールの『時の旅人ノストラダムス』48頁にはこう書かれている。「・・・それは一種独特の消毒剤を持っていたからだといわれる。また、ネズミを集めて焼き殺させたり、高熱消毒の指導を行ったらしい」ちょっと待て。これって『ノストラダムスの大予言』の冒頭に書かれている物語ではないか。トゥシャールが本当にそんなことを言っているか疑問に思い、原書にあたってみたところ、この部分が大幅に改ざんされていた。("Nostradamus"42-45頁)『化粧品とジャム論』では、自分で作ったバラを用いた調合薬が効力があったと自負している。ノストラダムスの画期的なアイデアかといえばどうもそうではない。『匂いの文化誌』という本によると、13世紀のイブン・バイタールの『アラビア薬物譜』には2324の薬物が載っていてバラ水(マー・ル・ワルド)という項目がある。「特に白バラの花を蒸留したものが健脳、強心、強精によく、目薬にも使う」

アラビア医学と錬金術は現在の化学の基礎である。ノストラダムスもプロヴァンス各地を遍歴したときに薬剤の知識を身につけていった。バラの効用についてはよく分からないが、プリニウスの『博物誌』ではバラのジュースに関する記述があり、主に薬用として用いられたらしい。公衆衛生的対策とセットで使われたであろうバラの調合薬、ノストラダムス自身ペストの特効薬と主張しているが実際にはどうだったのだろうか。

コメント

_ 研究者 ― 2008/11/19 14:00

いつもコメントのご返事ありがとうございます。今日はまた一段と空想上のノストラダムスから実像のノストラダムスに近づく内容でしたね。
こうしたアプローチがノストラダムス研究に大切なことだと思います。
新戦法さんのノストラダムスに対する情熱がうかがえます。

_ 新戦法 ― 2008/11/20 01:02

> こうしたアプローチがノストラダムス研究に大切なことだと思います。

そういっていただけるのは光栄ですが、最近見つけたバーゲンブック『匂いの文化誌』(リブロポート、1989年)の小ネタに過ぎません。(^^;

ノストラダムスの調合の中身をもう少し突っ込んで考察したいところですが、いかんせん素人には敷居が高すぎます。

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