永世竜王への軌跡2009/07/28 23:50

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渡辺明 永世竜王への軌跡 日本将棋連盟 2009年7月 を読んだ。本のタイトルを入力しようとキセキと打って変換するとまず「奇跡」という単語が出てきた。本来はこちらのほうが実情をよく表しているかもしれない。昨日は帰宅後に王座戦の挑戦者決定戦を横目で見ながらこの本を読んでいた。思えばこのブログでタイトル戦の記事を書いてきたのと歩調を合わせるように渡辺は竜王を防衛してきた。昨年羽生の挑戦を受けたときには気がつくとすでに4連覇していた。そして永世竜王をかけた死闘、奇跡の3連敗後の4連勝で見事に防衛し渡辺は20代で永世称号の資格を勝ち取った。羽生のその後の勝ちっぷりをみてもまだまだ全盛期は続いており、さらに円熟味を増しているようにも見える。その羽生に競り勝ったのだから価値がある。この本は竜王戦での渡辺の活躍ぶりをあますことなく書き記している。

今期の決勝トーナメントは順調に進んで挑戦者が絞られてきている。これからどんどん盛り上がっていくはずだ。そうしたことから今の時期の出版は絶妙のタイミングではないかと思う。以前は谷川が名人を奪取したときや羽生が竜王、名人、七冠を取った直後のタイミングに将棋世界の臨時増刊号という形で出ていたこともあった。今回の本は谷川浩司全集の本の作りを意識している。第一部は自戦記編でキーポイントとなった10局を取り上げている。第二部は棋譜解説編でそれ以外の棋譜を簡単なコメント付きで収録している。渡辺といえばブログが有名であるが本書はそのサービス精神が随所に垣間見られる。本譜の局面とともに変化図も載っているので番駒を使わずとも変化を追いやすい。

さらに解説では本譜手順を太字にしたり、各々の局面で残り時間を載せたり、※印を入れてユーモラスな注釈をつけるなど読者の視線に立った様々な工夫がなされている。こういったアイディアが出るのも若さの特権というものだろう。あまり細かい変化を追うことはせず、わかりやすく主要な変化をその時々の感想を添えているので級位者でも読み物として十分楽しめる。タイトル戦での各々の対局場のエピソードもなかなか面白い。今日は久保棋王が松尾七段に勝って挑戦に一歩近づいた。久保や深浦は渡辺をカモにしているので挑戦者になりさえすればタイトルいっただきと思っているかもしれない。次は羽生と森内の重量級対決。羽生が勝てばすんなり昨年と同一カードになりそうな気がする。