百詩篇9-62とマンドラゴラ2009/08/11 23:42

お盆休みに入って普段よりテレビを見る時間が増えた。特に見たい番組があるわけでもないが、平日のワイドーショーは滅多に目にする機会がないので新鮮である。最近の話題はどこもかしこも芸能界の薬物汚染の話ばかり。元トップアイドルの逮捕というのは衝撃的であるが、公共の電波をあれほど時間を割いて流すほどのニュースかといえば首を傾げる。薬物に手を染めるという罪を犯したのは許されることではないが、日本のマスコミの過剰反応には16世紀の魔女狩りの雰囲気すら漂ってくる。コメンテーターと称する人たちはそれほど聖人君子なのだろうか。・・・調べ物をしていた際に澁澤龍彦著『毒薬の手帖』を引っ張り出したところ、面白くなりついつい読み耽ってしまった。この本によると、人間と薬物との関わりは遠くギリシャ・ローマ時代から続いている。

そのなかに「マンドラゴラの幻想」というエッセイがある。マンドラゴラとは毒草とされる植物で、その図像は人間の首から大きな葉っぱが放射状に数枚生えており妖しい雰囲気を演出している。この薬草は古代から催眠飲料や吐剤として用いられるように重要な役割を果たしている。マンドラゴラという単語はノストラダムス予言集の百詩篇9-62の四行詩に登場する。「セラモン・アゴラ(トルコの町ウシャク)の領主に対して、十字軍戦士は皆列をなして領地権を守ろうとする。長持ちする阿片とマンゴラゴラ、ロゴンが10月3日に解放される」ラメジャラーはこの詩のソースを十字軍の知られざるエピソードと注釈している。この詩の意味も確定的ではないし、中世の十字軍と薬物の関連性も不明瞭である。『毒薬の手帖』56頁にはほんのわずかな手掛りが記されている。

「マイモニデスは二十五歳で、十字軍を惨敗せしめた回教皇帝サラディンの侍医となり、永いこと解毒剤の製造監督を命ぜられていたひとである。」この詩はひょっとするとユダヤの医師でカバリスト、マイモニデスを念頭に置いている可能性もあろう。ここから十字軍の時代にも毒薬が用いられていたことが窺える。百詩篇6-18に出てくる、「王の命を救うヘブライの術でないもの」も毒薬に対する解毒薬を指しているのかもしれない。