トゥシャールのノストラダムスの評伝2009/04/16 23:52

ミシェル・C・トゥシャールの『大予言者ノストラダムスの謎』が、千葉茂隆訳 河合浩三解説 で大陸書房より出版されたのは1987年である。早いもので今からもう20年以上に経ってしまった。この本はそれまで日本で不正確にしか紹介されていなかったノストラダムスの評伝について、本場フランスの研究書を翻訳したという点で大きな意義があった。ノストラダムスの伝記と作品、時代背景、フランスの注釈者たちの諸説などジャーナリステック的な立場で書かれている。指し絵には貴重な図版も挿入されており、当時はノストラダムスに対して実証的にアプローチする際の唯一の参考図書であった。原書と比較すると、章立てはほぼオリジナルを踏襲しているが、各見出しは翻訳の際に相当編集されているのが目につく。日本語版には原書にない河合氏の解説「ノストラダムスの現代的意義」があり、信奉者側からの見方が大半を占め、日本の予言解釈ファンの受けを狙ったにすぎない。

補遺にある「セザールへの手紙」と「アンリ二世への手紙」はそれぞれ『新釈ノストラダムス』と『大予言原典諸世紀』から転記したものだが、原書のドキュメントは「アンリ二世への手紙」と「化粧品とジャム論」の抜粋になっている。ノストラダムス関連年表を見ると、原書は1572年までのサン・バルテルミーの虐殺までだが、日本語版では主要元首を追加した上で1871年のパリコミューンまで拡張している。あと原書にある参考文献は日本語版ではすべてカットされている。今思えば、この文献リストは当時でいえば押さえておくべき関連本をほぼ網羅しているので省略されてしまったのは残念である。大陸書房の倒産とともに長らく絶版になっていたが、1998年にボーダーランド文庫として『時の旅人ノストラダムス』というタイトルで再版されている。大野氏による現地写真の追加や、河合氏の解説に代わって、武田崇元氏の解説「ノストラダムスの背後に広がるヨーロッパの闇」が載っている。

ところでトゥシャールの原書"Nostradamus ou le devin cache"(ノストラダムス或いは隠れた予言者)だが、手元でハードカバー版とソフトカバー版の2種類を参照できる。両者ともコピーライトにはCulture, Art, Loisirs Paris, 1972 とある。ソフトカバーのほうは表カバーにノストラダムスの肖像があり、出版社がGrassetとある。(画像参照)裏カバーにはディレクターであるルイ・ポエルの紹介文が載っている。ソフトカバー本がオリジナルでそれをコピーした本がハードカバー本ではないかと想像する。日本語版の原書のコピーライトを見るとSOFEDISとあり、どうも整合性が見えない。どういった事情によるものなのだろうか。

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