ミシェル・ノストラダムス師の予言集 (1568年)を読んで2007/09/01 11:53

ウィキペディア(Wikipedia)に待望の1568年版予言集に関する記事が公開された。膨大な参考文献を挙げながら有益な情報を巧みに編集しており相変わらずクオリティが高い。筆者が1568年版予言集に関わる書誌を初めて読んだのは1982年のエドガー・レオニの著作でサンチュリの初期の版本(1555-1643)に簡単なコメントとともにリストアップされている。当時これを読んで1568年版予言集には様々な複雑な問題が内在していることを知った。正規版と偽年代版、さらには正規版も一種類ではなくタイトルページによるバリエーションが指摘されている。当時レオニは単純に四種類に分類していた。

レオニ本にはアルボー博物館所蔵の1568年版の表紙のコピーが載っている。実はアルボーには二種類の1568年版、ナンバーS.391とS.389がある。二者を比較すると第二部の表紙の花つぼみのデザインが異なる。レオニ本のものは前者で、インターネット上で画像が公開されているのは後者だ。ただし表紙に1568年とあるが実際に印刷されたのは1574年あるいは1593年という。ウィキペディアの記事にもあるようにダニエル・リュゾは『ノストラダムスの遺言書』の原書の中で素晴らしいノストラダムスの文献書誌学上の研究を発表している。

その中で1568年ブノワ・リゴー版予言集の分類と出典について貴重な見解を示している。リュゾの所有する版本を含めたAからHまでの8種類に言及しており、それが今日の書誌研究のベースとなっている。今でこそインターネット上で予言集の画像を簡単に見ることができるが、以前は海外の図書館に問い合わせをしてコピーをお願いするしかオリジナルにアクセスする手段はなかった。1568年版のテクストといってもせいぜいエリカ・チータムの英訳本しか参照できなかった。ノストラダムス研究室(http://pub.ne.jp/nostradamuslab/)ではホームページの開設当初から精力的に海外文献を入手している。

hayatoさんの御好意でその貴重なコレクションから1568年版予言集マルセイユ標本のコピーをいただいたことがある。市販本でない現存する予言集のまるまる一冊分の画像を見た一番最初で、その時の感動は今でもよく憶えている。マルセイユ標本も1568年と表紙にあるが実際には1615年に印刷されたものらしい。リヨン標本とマルセイユ標本を比較すると(画像参照)明らかに版の組み方が異なる。一番分りやすいのが四行詩のローマ数字のノンブルでリヨン標本では斜体である。他にも細かく見るとCENTVRIEのヘッダーの文字間隔とかラテン語詩のタイトルの位置、正書法の違いなどがある。今後ますます版本研究が進んでいくことだろう。