クロケットの『ノストラダムスの予言群、語られざる物語』1983年版 ― 2010/10/12 22:40
今更という気がしないでもないが、これまでの個人的な疑問を解消しようと思い、アーサー・クロケットの『ノストラダムスの予言群、語られざる物語』1983年版を入手してみた。日本では1991年に『ノストラダムスの極秘大予言』という題名で南山宏氏による邦訳が出ている。内容についてはノストラダムスサロンでも紹介したことがあるし、ノストラダムスの大事典にも詳しい解説がある。(http://www42.atwiki.jp/nostradamus/pages/861.html)アマゾンの検索結果によれば、初版が1983年、その後1991年の湾岸戦争や2001年の米同時多発テロといった世界情勢にあわせて改訂版が出版されている。1984年にはフランス語版も出ているが手元にない。日本で初めてクロケット本が紹介されたのはワンダーライフ第11号だが、そこでは1989年インナー・ライト出版のコピーライトと"Nostradamus's untold story, His Unpublished Prophecies"(ノストラダムスの語られざる物語、彼の出版されなかった予言群)という題名が添えられていた。ちなみに邦訳に載っている原題は"Nostradamus' Untold story:His Unpublished Prophecies"でコピーライトは1983年である。
今回届いた1983年版を見て少々驚いた。まず製本がプラスチックリング方式でタイプライターで打った原稿をコピーして閉じたと思しき簡素なもの。題名は"Nostradamus' Prophecies The untold story"(ノストラダムスの予言群、語られざる物語)で上の表記と異なる。改訂版はいずれも"Nostradamus' Unpublished Prophecies"(ノストラダムスの出版されなかった予言群)でこの辺の整合性の無さは訳がわからない。1983年版を開いてみると、冒頭に1枚のパンフレットが差し込まれている。タイトルは"Nostradamus' Black Prophecies"(ノストラダムスの暗黒予言)でこの部分は邦訳にはない。ワンダーライフ第11号に用いられたタイトルはここから取られたもの。ブナズラによれば、フランス語版でも"Les Propheties macabres de Nostradamus"(ノストラダムスの死を暗示する予言)として収録されているようだ。謎だった、ドロレス・キャノンの引用した「八十足す九の年に広大な東が崩壊する。・・・」といった詩はこの部分に載っている。この詩を含めて7編の四行詩が英訳で引用されているが後の改訂版に受け継がれなかった。
何故かといえば、捏造されたインチキであるのが一目瞭然だからだ。例えば「二番目の千年紀マイナス十年、西側では群集はめまいがして・・・」というノストラダムスの予言から1990年にアメリカの人々はほとんど薬物を常用するようになるだろう、なんて解釈をしている。これはあまりにひどいでっち上げである。寺島研次氏にしても南山宏氏にしても当然この部分も読んだはずだが、最終的にはオミットしてしまった。さて本編に進むと、まず目次があって、その下に書かれたISBNは一応改訂版と同じである。コピーライトは1983年、ブナズラの解説にある1981年のニューヨークのグローバル・コミュニケーションの出版というのは裏づけが取れない。どういうわけか出版社名が消されているが、インナー・ライト出版であるのは間違いない。本文はタイプライターで打ったような活字が並んでおり、のちの改訂版で太字になる部分はアンダーラインがされている。本編の内容は改訂版とほぼ一緒だが、「彗星が去り、魚はその片腹を見せて浮かぶ。・・・」という詩のみ1983年版に見られる。邦訳は1983年版からの訳出のため本編に残っている。
この詩が後の版で削除された理由も簡単で、1986年の予言が外れたのが明白となってしまったのでは都合が悪かろう。邦訳では冒頭に置かれている極秘予言の章が、1983年版では最終章になっている。これは改訂版も同様なので邦訳独自のアレンジといえる。邦訳では丁寧に百詩篇の章番号を添えているが、1983年版では四行詩の英訳のみで章番号は一切つけられていない。この辺が従来の詩のクロケットの解釈なのか、未発見予言なのかを曖昧にしている。邦訳の43頁にある「すでに公表ずみの次の四行詩」というのも原文では単に"The next quatrain"で、あまりに粗雑な話の展開に見るに見かねた訳者が少しばかりフォローを入れたということかもしれない。改めて1983年版を読んでみてわかったのは、クロケットはノストラダムスの予言をテーマにしたフィクションを著したということだ。それをタイプライターで打って私家版のような本にまとめた。それがいつの間にやらノンフィクションに化けてしまった。実際のところ、そんな事情だった可能性が高いのではないか。
今回届いた1983年版を見て少々驚いた。まず製本がプラスチックリング方式でタイプライターで打った原稿をコピーして閉じたと思しき簡素なもの。題名は"Nostradamus' Prophecies The untold story"(ノストラダムスの予言群、語られざる物語)で上の表記と異なる。改訂版はいずれも"Nostradamus' Unpublished Prophecies"(ノストラダムスの出版されなかった予言群)でこの辺の整合性の無さは訳がわからない。1983年版を開いてみると、冒頭に1枚のパンフレットが差し込まれている。タイトルは"Nostradamus' Black Prophecies"(ノストラダムスの暗黒予言)でこの部分は邦訳にはない。ワンダーライフ第11号に用いられたタイトルはここから取られたもの。ブナズラによれば、フランス語版でも"Les Propheties macabres de Nostradamus"(ノストラダムスの死を暗示する予言)として収録されているようだ。謎だった、ドロレス・キャノンの引用した「八十足す九の年に広大な東が崩壊する。・・・」といった詩はこの部分に載っている。この詩を含めて7編の四行詩が英訳で引用されているが後の改訂版に受け継がれなかった。
何故かといえば、捏造されたインチキであるのが一目瞭然だからだ。例えば「二番目の千年紀マイナス十年、西側では群集はめまいがして・・・」というノストラダムスの予言から1990年にアメリカの人々はほとんど薬物を常用するようになるだろう、なんて解釈をしている。これはあまりにひどいでっち上げである。寺島研次氏にしても南山宏氏にしても当然この部分も読んだはずだが、最終的にはオミットしてしまった。さて本編に進むと、まず目次があって、その下に書かれたISBNは一応改訂版と同じである。コピーライトは1983年、ブナズラの解説にある1981年のニューヨークのグローバル・コミュニケーションの出版というのは裏づけが取れない。どういうわけか出版社名が消されているが、インナー・ライト出版であるのは間違いない。本文はタイプライターで打ったような活字が並んでおり、のちの改訂版で太字になる部分はアンダーラインがされている。本編の内容は改訂版とほぼ一緒だが、「彗星が去り、魚はその片腹を見せて浮かぶ。・・・」という詩のみ1983年版に見られる。邦訳は1983年版からの訳出のため本編に残っている。
この詩が後の版で削除された理由も簡単で、1986年の予言が外れたのが明白となってしまったのでは都合が悪かろう。邦訳では冒頭に置かれている極秘予言の章が、1983年版では最終章になっている。これは改訂版も同様なので邦訳独自のアレンジといえる。邦訳では丁寧に百詩篇の章番号を添えているが、1983年版では四行詩の英訳のみで章番号は一切つけられていない。この辺が従来の詩のクロケットの解釈なのか、未発見予言なのかを曖昧にしている。邦訳の43頁にある「すでに公表ずみの次の四行詩」というのも原文では単に"The next quatrain"で、あまりに粗雑な話の展開に見るに見かねた訳者が少しばかりフォローを入れたということかもしれない。改めて1983年版を読んでみてわかったのは、クロケットはノストラダムスの予言をテーマにしたフィクションを著したということだ。それをタイプライターで打って私家版のような本にまとめた。それがいつの間にやらノンフィクションに化けてしまった。実際のところ、そんな事情だった可能性が高いのではないか。
コメント
_ sumaru ― 2010/10/13 23:20
_ 新戦法 ― 2010/10/14 22:58
sumaruさん、早速のコメントありがとうございます。
> うーん、著作権表示の題名が違うなんて、ありなのか・・・・。
改めて1983年版の著作権表示を見ると、"Nostradamus' Unpublished Prophecies"になっています。表紙のタイトルと異なるのもどうなんでしょうね(^^;
まあ、それだけ無頓着に作られた本ということでしょうか。ひょっとすると1983年版と1991年版の中間の版本があるのかもしれません。
> しこたま笑わせていただきました。なんでしょう、この安直さは(笑)。
> 逆に全部見てみたい気もしますね。
もし必要であればその部分をメールでお送りしますよ。ただし、sumaruさんの研究には何の役にも立たないとは思いますが・・・(^^;
> 再版に一枚かんでいたT.G.ベクリーの存在も大きいのかもしれませんね。UFO方面の本も書いている人物みたいですし。
ベクリーの名前は1983年版には出てきません。代わりにバルバラ・グラハムとマーガレット・シューツへの謝意があります。
> ところで、自分のブログにも書いたことですが、竹本氏の本は値上げ&再延期だそうです。内容紹介がでたので今月こそはと思ったんですが・・・。
竹本氏も随分と引っ張りますね。延期に延期を重ねて値上げまでして(?)最終的にはどんな仕上がりになるのか、ちょっと興味はあります。
『ノストラダムスの大予言』の改訂版の変遷を読みました。非常に細かく分析されているのに感心しました。以前の不完全な版本考のフォローという意味でも助かりました。ありがとうございました。
> うーん、著作権表示の題名が違うなんて、ありなのか・・・・。
改めて1983年版の著作権表示を見ると、"Nostradamus' Unpublished Prophecies"になっています。表紙のタイトルと異なるのもどうなんでしょうね(^^;
まあ、それだけ無頓着に作られた本ということでしょうか。ひょっとすると1983年版と1991年版の中間の版本があるのかもしれません。
> しこたま笑わせていただきました。なんでしょう、この安直さは(笑)。
> 逆に全部見てみたい気もしますね。
もし必要であればその部分をメールでお送りしますよ。ただし、sumaruさんの研究には何の役にも立たないとは思いますが・・・(^^;
> 再版に一枚かんでいたT.G.ベクリーの存在も大きいのかもしれませんね。UFO方面の本も書いている人物みたいですし。
ベクリーの名前は1983年版には出てきません。代わりにバルバラ・グラハムとマーガレット・シューツへの謝意があります。
> ところで、自分のブログにも書いたことですが、竹本氏の本は値上げ&再延期だそうです。内容紹介がでたので今月こそはと思ったんですが・・・。
竹本氏も随分と引っ張りますね。延期に延期を重ねて値上げまでして(?)最終的にはどんな仕上がりになるのか、ちょっと興味はあります。
『ノストラダムスの大予言』の改訂版の変遷を読みました。非常に細かく分析されているのに感心しました。以前の不完全な版本考のフォローという意味でも助かりました。ありがとうございました。
_ sumaru ― 2010/10/15 21:53
>ひょっとすると1983年版と1991年版の中間の版本があるのかもしれません。
『ワンダーライフ』の著作権表示が1989年になっていたことが何か関係があるのではないでしょうか。予想以上に「私家版」っぽさがでているようなので、再版されていなかったとすると寺島氏が1989年に知ることは出来なかったのでは?という気もします。
>もし必要であればその部分をメールでお送りしますよ
思っても見ないお申し出で驚きました。お手数ですがぜひお願い致します。
本当のところ想定していたのは、ノストラダムスサロンの件の記事に増補されるのを期待したいと思っていました(^^;
ただ、お忙しいでしょうし、そんなリクエストをするわけにも・・・と思って書かなかったのですが、かえって妙な“おねだり”をする形になってしまい恐縮です。
>『ノストラダムスの大予言』の改訂版の変遷を読みました。
お役に立てば幸いです。ただ、『ソイレントグリーン』の件などは自分だけの比較では気付かなかったことですし、お礼を言われるようなものではありません(#^.^#)
ただ、ついでにお尋ねしたいのですが、あれは初版でそうなっていたということなのでしょうか。
『ワンダーライフ』の著作権表示が1989年になっていたことが何か関係があるのではないでしょうか。予想以上に「私家版」っぽさがでているようなので、再版されていなかったとすると寺島氏が1989年に知ることは出来なかったのでは?という気もします。
>もし必要であればその部分をメールでお送りしますよ
思っても見ないお申し出で驚きました。お手数ですがぜひお願い致します。
本当のところ想定していたのは、ノストラダムスサロンの件の記事に増補されるのを期待したいと思っていました(^^;
ただ、お忙しいでしょうし、そんなリクエストをするわけにも・・・と思って書かなかったのですが、かえって妙な“おねだり”をする形になってしまい恐縮です。
>『ノストラダムスの大予言』の改訂版の変遷を読みました。
お役に立てば幸いです。ただ、『ソイレントグリーン』の件などは自分だけの比較では気付かなかったことですし、お礼を言われるようなものではありません(#^.^#)
ただ、ついでにお尋ねしたいのですが、あれは初版でそうなっていたということなのでしょうか。
_ 新戦法 ― 2010/10/16 22:56
sumaruさん、
> 『ワンダーライフ』の著作権表示が1989年になっていたことが何か関係があるのではないでしょうか。
そうなんです。この1989年が気になります。ただ、1983年版がああいった作りなのでコピーライトの部分だけ1989年と変更すればいかようにも本の発行ができるような感じもしています。
> かえって妙な“おねだり”をする形になってしまい恐縮です。
いえいえ、何かとお世話になっていますので(^^;
> ただ、ついでにお尋ねしたいのですが、あれは初版でそうなっていたということなのでしょうか。
もう一度初版を確認してみましたが、やはり「1980年代半ば」となっています。ちなみに「ヘイエルダール教授」の部分は初版も同じように不自然な隙間がありますが特に変わっていません。印刷所は萩原です。
> 『ワンダーライフ』の著作権表示が1989年になっていたことが何か関係があるのではないでしょうか。
そうなんです。この1989年が気になります。ただ、1983年版がああいった作りなのでコピーライトの部分だけ1989年と変更すればいかようにも本の発行ができるような感じもしています。
> かえって妙な“おねだり”をする形になってしまい恐縮です。
いえいえ、何かとお世話になっていますので(^^;
> ただ、ついでにお尋ねしたいのですが、あれは初版でそうなっていたということなのでしょうか。
もう一度初版を確認してみましたが、やはり「1980年代半ば」となっています。ちなみに「ヘイエルダール教授」の部分は初版も同じように不自然な隙間がありますが特に変わっていません。印刷所は萩原です。
_ sumaru ― 2010/10/17 11:30
>もう一度初版を確認してみましたが、やはり「1980年代半ば」となっています。ちなみに「ヘイエルダール教授」の部分は初版も同じように不自然な隙間がありますが特に変わっていません。印刷所は萩原です。
丁寧なコメントありがとうございます。
頂いたコメントを踏まえて、近日中に加筆修正したいと思います。
丁寧なコメントありがとうございます。
頂いたコメントを踏まえて、近日中に加筆修正したいと思います。
_ 新戦法 ― 2010/10/18 21:40
> 頂いたコメントを踏まえて、近日中に加筆修正したいと思います。
記事の更新を楽しみにしています。
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>題名は"Nostradamus' Prophecies The untold story"(ノストラダムスの予言群、語られざる物語)で上の表記と異なる。
「大事典」の方の記事名が不正確なことになってしまいますが、今更各記事のリンク先を修正するのも面倒なので、どういう経緯で Nostradamus' Untold story:His Unpublished Prophecies になったのかが推測できるまではとりあえず記事名変更はしないでおきますが・・・
うーん、著作権表示の題名が違うなんて、ありなのか・・・・。
>1983年版を開いてみると、冒頭に1枚のパンフレットが差し込まれている。タイトルは"Nostradamus' Black Prophecies"(ノストラダムスの暗黒予言)でこの部分は邦訳にはない。
ブナズラの紹介にあったペら1枚の正体が分かったのはありがたかったですが、「暗黒予言」というチープな煽りタイトルが原書にもあったとは・・・。
>例えば「二番目の千年紀マイナス十年、西側では群集はめまいがして・・・」
しこたま笑わせていただきました。なんでしょう、この安直さは(笑)。
逆に全部見てみたい気もしますね。
>それがいつの間にやらノンフィクションに化けてしまった。
再版に一枚かんでいたT.G.ベクリーの存在も大きいのかもしれませんね。UFO方面の本も書いている人物みたいですし。
ところで、自分のブログにも書いたことですが、竹本氏の本は値上げ&再延期だそうです。内容紹介がでたので今月こそはと思ったんですが・・・。