ロビンソン変形譚小史2009/09/26 23:45

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岩尾龍太郎 ロビンソン変形譚小史―物語の漂流 みすず書房 2000年3月 を読んだ。ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』といえば『ガリバー旅行記』と並んで冒険小説のイメージが強いが、ロビンソン物語は「世界文学の中で最も翻訳・模倣・簡略・改造版が多い物語」で変形譚は近代思想史の研究対象として宝の山であるという。本書では、変形譚を前史(1492-1719)、第一期(1720-1762)、第二期(1762-1812)、第三期(1812-1904)、第四期(1904-現代)に分類している。1000を超えるB級作品群を相手に、ごく最近のものに至るまでマニアックな分析を試みている。細かい部分で理解しがたいところもあるが、変形譚の時代区分自体がかなりの力技という感じがする。始祖ロビンソンが、時代背景に沿っていろいろな形に書き換えられている歴史は、一応整理されている。著者は日本でただ一人のロビンソン学者という。

本書によると、デフォー自身が小遣い稼ぎのため一作目のヒットに便乗して変形譚を書いていた。こうしたサバイバルもののエッセンスは、最近では海外人気ドラマ『ロスト』などにも取り込まれている。著者は変形譚と思想史との視点で物語のモチーフを紹介しているが、ざっと読み進めていくと、ドラマとも結構オーバーラップするテーマが盛り込まれているのに気づく。閉じた島への逃避願望、すでに人生の辛酸を舐めた者、複数の成年男女、本国や故郷に帰りたくない、島は物質的生産よりむしろ再生産おあるいは人口増殖のモチーフに満ちている、等々(54-59頁)。子供の頃に読んだ『十五少年漂流記』など、無人島でのサバイバルは過酷ではあるがユートピア的な憧れがある。とはいえ、それもあくまで小説のなか、想像の域を超えない範囲である。現実のサバイバルとなればインドア派には到底無理である。

ロンビンソン物語のルーツといえる漂流譚の紹介がある。有力視されているのは、スコットランド人水夫のセルカークのチリ洋上の島への4年4ヵ月のたった一人の置き去り記録である。与えられたのは銃、火薬、弾丸、ナイフ、手斧、やかん、煙草、聖書、観測器具のみ。そんな環境で実際に生き延びたというのも驚異である。昨今はテレビの企画などで無人島のサバイバルというのを見かけることがある。大自然のなか辛いロケには違いないが、生死をかける極限ではないだろう。小説のジャンルには入らないが、ロビンソン変形譚の変形の末端に添えられよう。