第35期棋王戦第五局は久保が勝って二冠を堅持2010/03/31 23:43

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お互いの勝ちたいという執念が棋譜からにじみ出てくる190手の大熱戦であった。最終局は振り駒で佐藤の先手、となれば久保は頼れる相棒のゴキゲン中飛車を再度投入する。当然予想された戦型なので佐藤は十分に作戦を練ってきたことだろう。最終局、タイトル奪回に向けて託した作戦は早めの▲3七銀からの急戦。最近流行している形である。これに対して久保は驚愕の構想を見せる。銀が5段目まで進んで先手成功かと思われたが、ここから△9一香と穴熊を目指す。仕掛けられてから穴熊に潜るというのは普通では考えられない。この場合は先手が抑え込む形なので十分囲いが間に合うと見切っているのだ。棋王戦は持ち時間が4時間と短い。終盤双方が秒読みになるのは必須。そのときのために貯金をしておこうとの意図が見え隠れする。先手は残念ながら玉を固める将棋にはならない。

久保は穴熊の固さを頼りに遮二無二先手玉に食らいついていくが、どうも先手が余せそうな局面が続く。116手目△3一歩に▲2二飛成△3二金で飛車を手にしては後手が面白くなったかに思えたが、160手目△3五馬と引かせたところでは明らかに先手優勢。しかし久保も本領発揮の粘り強さを出してそう簡単に崩れない。終盤戦の秒読み、相手は穴熊ですぐに王手がかからない、そんな極度の精神状態のなかで正着を続けるのはトッププロといえども難しい。最後はどこで体が入れ替わったのははっきりしないが、180手目△8四歩と先手玉への詰めろに対する▲8三桂打がどうだったか。▲8四同香△8五歩▲同玉△7四金▲8六玉でどうか。しかし自陣は風前の灯、相手玉が穴熊では実戦的には絶対に後手が勝ちやすい。佐藤もなんとか罠を仕掛けて攻め込むが久保の受けは正確。大逆転で棋王を防衛。併せて九段昇段を果たした。

佐藤はA級陥落から、さらに棋王の奪回を目前にして敗れ去った。まさに往復ビンタを食らわされたよう。中継ブログの終局直後の写真から佐藤の無念さが伝わってくる。これで久保は羽生、佐藤と撃破して二冠を堅持。A級復帰も決め、この世の春を謳歌していることだろう。勝ち運に恵まれた者に最後は勝利の女神がほほ笑んだ、そんな気がする名局であった。