ビートたけしの超常現象(秘)Xファイル2017/12/24 22:27

本当に久しぶりの更新となる。

毎年の年末の恒例ともいえる『ビートたけしの超常現象(秘)Xファイル』が12月23日に放映された。そのなかで「世紀の予言者ノストラダムス再降臨 」というコーナーでノストラダムスの予言が取り上げられた。(実を言うと、これ以外のコーナーはほとんど見ていない。)ノストラダムスの大事典 編集雑記には早速その内容と雑感が更新されている。問題点についてはそこで指摘されているので付け加えることもないがちょっと気になった点を記しておこう。この時期にノストラダムスの予言に当てはめる格好のネタとして現在進行形の米国のトランプ大統領と北朝鮮の対立が挙げられるだろう。

果たして来年は本当に戦争が勃発するのだろうか、人々の漠然とした不安に応えるべくある種の占いとしてノストラダムスの予言が引き合いにだされている。ノストラダムスの予言解釈を担当した白神じゅりこ氏はあまり存じてはいないが、最近購入した『日本懐かしオカルト大全』では執筆者の一人として名前を連ねており、新感覚オカルト作家という肩書がある。(テレビ番組では予言専門家)同書の92頁から94頁に「世紀の大予言者ノストラダムス」という記事で1970年代の大予言ブームを振り返っているが白神氏による文章なのかもしれない。

テレビ画面のなかで白神氏はPCを操作してノストラダムスの予言集の画像を写すが、これはGallicaの1589年ピエール・メニエ版のノストラダムス予言集の閲覧ページである。Gallicaでは完全版の1568年版予言集もダウンロードできるのに何故マイナーな1589年という不完全な版本(詩百篇は六巻71番までと補遺の七巻、八巻までしかない)を取り上げたのだろうか。ここに番組の制作者側の作為が感じられる。詩百篇1-57のこじつけ解釈の都合上できるだけトランプの名前に近いスペルのtrompeを見出したからに他ならない。ネタとして少しでも信憑性を増そうとした意図が透けて見える。

ちなみに予言集初版の1555年以降ではtrombeとなっている。各版の比較についてはマリオ氏のサイトを参照のこと。これを見ると、trompeの異文が初めて出現したのは1588年ニコラ・ロフェ未亡人版でピエール・メニエ版はその誤植をコピーしたに過ぎない。そのためその後の版本には引き継がれなかった。こういう小手先の小細工はテレビメディアとして正しい紹介とはいえない。番組でもアナウンスがあったが、原文はインターネット上で閲覧することができるので、こういった手法はすぐにばれてしまう。それも織り込み済で番組制作したのだとしたら確信犯もいいところである。

アンゴルモアの大王を1999年前後の中国の台頭に結びつけようとする解釈において超常現象肯定派の秋山眞人氏が発言しているが、ヘンリー・C・ロバーツが70年代にモンゴリアンといったという主張は聞いていてこちらが恥ずかしくなる。ロバーツ自身その著書のなかでモンゴリアンと結びつけたことはない。ロバーツ本の邦訳である1975年のたま出版の『ノストラダムス大予言原典』でアンゴルモアの大王を毛沢東思想(モンゴロイドのモー)という編者による奇妙な註釈が見られる。秋山氏はこれを真に受けて番組内で発言したもので正確さに欠ける。

たま出版の編者はコリン・ウィルソンの『オカルト』の解説に発想を得てモンゴルという解釈を盛り込んだのだろうがイコール中国とはいえない。おそらく秋山氏はテレビ局の誘導する台本通りに発言したものでロバーツ本の原書までは確認していない。しかも2度もロバーツの名前を引き合いに出すあたりはもう少し細かいフォローができなかったのかと非常に残念に思う。欲を言えばロバーツ本の後に刊行されたエドガー・レオニくらいは言及してほしかった。(アンゴルモア=モンゴル説を検証するを参照)ロバーツの原書の遍歴についてはsumaruさんが詳細に紹介しているのでここでは触れない。

そもそも論になるが今頃ノストラダムスを取り上げるニーズは世間にあるのだろうか。最後のブームであった1999年から18年を経て世間一般ではノストラダムス自体がすでに認知されていない状況になっていると思われる。それでもこうしてオカルトネタのなかに今でも取り入れられるのは製作者側の1970年代のオカルトブームの洗礼を受けた年代で権限を持つ人間の想いが未だに強く残っているからだろう、個人的にはそう推察したくなる。