ノストラダムスと日本人2018/04/03 00:12

鈴木範久著『聖書の日本語 : 翻訳の歴史』を読んだ。聖書の日本語訳についてはノストラダムス雑記帳の「番外編 『真説黙示録の大予言』へのツッコミ」にある加治木氏の聖書の翻訳についての批評から関心を持った。聖書の翻訳は一言で言えないほどその歴史的な背景は深い。「神」という訳語ひとつとってもいろいろな変遷を辿ってきたというのは驚きである。この本ではそれを「中国語訳から明治元訳へ、そして大正改訳から新共同訳まで」丁寧に素人にもわかりやすく解説してくれる。

そのなかで付章の「聖書と日本人」ではこれまで聖書の翻訳に関わってきた日本人11人を実に興味深く紹介している。これをヒントに「ノストラダムスと日本人」というテーマで考えてみた。ノストラダムス予言集の詩百篇の巻数に合わせて12人を挙げるとすれば独断と偏見で次のようになるだろう。著書の影響力やマスメディアへの登場などいずれの方も日本でノストラダムスのことを語る際に外すことのできない面面といえる。ゆくゆくはもう少し詳細にまとめたいと思っている。

1 渡辺一夫
仏文学者。「ある占星師の話」(『ルネサンスの人々』所収、初出は1947年)のなかで日本で初めてノストラダムスの評伝を発表した。旧聞による記述とはいえ学術的なアプローチは後代の研究者に大きな影響を与えた。「ノストラダムスの「魔法鏡」の話」(1974)というエッセイもある。

2 黒沼健
作家。「七十世紀の大予言」(『謎と怪奇物語』所収、初出は1952年)で海外の信奉者の著作に準拠しオカルト的な予言者としてのノストラダムスにスポットを当てた読み物を発表した。1960年代から1970年代にかけて多くのノストラダムスに関する物語を発表している。

3 五島勉
作家。云わずと知れた日本の大予言ブームの元祖。1973年に発売された『ノストラダムスの大予言』は当時の終末ブームに便乗した形でベストセラーとなり、ノストラダムス=人類滅亡予言というポップカルチャーを定着させた。以降シリーズ化され1998年まで10冊を数えるヒット作となった。

4 川尻徹
精神科医。独特の推理をもとにヒトラーと予言を結び付けた『滅亡のシナリオ』(1985)はオウム真理教の教祖に大きな影響を与えたとされる。もともとは週刊プレイボーイの企画として連載されたものだが奇想天外な川尻仮説のファンも多かったようでその後も多くの関連本が日の目を見た。

5 竹本忠雄
評論家。筑波大学名誉教授。ルーマニア出身の信奉者ヴライク・イオネスクの翻訳書『ノストラダムスメッセージ』(1991,1993)を刊行した。その後自らの著書としてまとめた『秘伝ノストラダムス・コード 逆転の世界史』(2011)は800頁もの大著であるが自分探しの旅日記のような趣である。

6 志水一夫
科学解説家。多くの情報を盛り込んで『ノストラダムスの大予言』の問題点を明らかにした『大予言の嘘―占いからノストラダムスまで その手口と内幕』(1991)はその後に輩出する懐疑者のバイブル的な存在となった。『トンデモ・ノストラダムス解剖学』(1998)に内容の焼き直しが見られる。

7 山本弘
SF作家。と学会会長という立場から従来の信奉者を面白おかしく批評した『トンデモ ノストラダムス本の世界』(1998)、その続編『トンデモ大予言の後始末』(2000)を出版した。ユーモラスな語り口でノストラダムス研究家研究家としてマスメディアに持てはやされた。

8 竹下節子
比較文化史家、評論家。エドガー・ルロワなど本国フランスの手堅い研究書に基づいて書かれた『ノストラダムスの生涯』(1998)は日本における実証的な研究の先駆けとして大いに評価されている。その続編としてエッセイ集『さよならノストラダムス』(1999年)を上梓した。

9 高田勇
仏文学者。明治大学名誉教授。ピエール・ブランダムール校訂本により『ノストラダムス予言集』(1999)の編訳を行った。『ノストラダムスとルネサンス』(2000)には「フランス文学史の中のノストラダムス」、「ノストラダムス物語の生成」といった珠玉の論文が収められている。

10 伊藤進
仏文学者。中京大学教養部教授。高田と共に『ノストラダムス予言集』(1999)の編訳を行った。ドレヴィヨン&ラグランジュ『ノストラダムス:予言の真実』(2004)の日本語版監修を務めた。『ノストラダムス予言集』復刊版(2014)では最近の研究動向を踏まえた後書きを執筆している。

11 田窪勇人
サイト「ノストラダムス研究室」(1997~)で貴重なノストラダムス情報を発信してきた。「日本におけるノストラダムス受容史」(『ユリイカ』1999.2月号所収)はノストラダムスブームを語る上で多くの論者に参照された。『ミクロコスモス』第1集に「ノストラダムスの学術研究の動向」が収録されている。

12 山津寿丸
サイト「ノストラダムス雑記帳」、「ノストラダムスの大事典」で膨大なノストラダムス情報を発信している。関連書やマスメディアのノストラダムスの紹介の際の参考サイトとなっている。共著『検証予言はどこまで当たるのか』(2012)では伝説と比較する形で基本事項を手際よく整理している。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
本ブログの正式なタイトルは何ですか。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://asakura.asablo.jp/blog/2018/04/03/8817675/tb