ピエール・シュヴィヨ版予言集の覚書その22017/01/10 22:34

パトリス・ギナールは「コーパス・ノストラダムス80 予言集のシュヴィヨ版1611年-1620年」でピエール・シュヴィヨ版ノストラダムス予言集の画像を比較したものを一覧にしてくれている。ここに挙げられた標本はすべてインターネット上で公開されているので内容の詳細を検討することができる。

1 Troyes, Pierre Chevillot, s.d. [1611頃]
マリオ・グレゴリオのライブラリに所蔵されている標本である。(a) 第一部の表紙なし (b) 七巻42篇 (c) 「1600年から始まる」なし (d) 頁付は個別  (e) 第二部の表紙 RPOPHETIES (f) 「撰集」なし。ギナールはトロワで印刷された予言集の初期版と考えている。標本の予言集の表紙になぜか第二部の表紙がある。第一部の表紙とセザールへの書簡が剥がれて逸脱してしまったため第二部の表紙を代用したのだろう。そのため「アンリ二世への書簡」の前にあるはずの表紙はない。予言集の表紙(第二部)に年代の記載はないが、分冊の「撰集」と同時期に出版されたと見られるため、「撰集」の表紙に記載された1611年のあたりと想定される。アンリ四世崩御のタイミングに合わせた出版ではなかったか。

2 Troyes, Pierre Chevillot, s.d. puis"1611"[1612頃] Ruzo n°53
ギナール旧分類では"Chevillot C3"。元はダニエル・リュゾの蔵書であったが2007年4月のスワン・オークションでマリオ・グレゴリオに落札された。マリオのサイトで標本を閲覧することができる。(a) 第一部の表紙 はAdjoustees... (b) 七巻42篇 (c) 「1600年から始まる」なし (d) 頁付は個別  (e) 第二部の表紙 RPOPHETIES (f) 「撰集」含む。ここから「2」は「1」の予言集と分冊の「撰集」を張り合わせたものといえる。当時は地方へ運ぶ際に印刷した本を製本前の「刷り本」の状態で運び、顧客が趣味に応じて製本・装飾を施していたためこうした構成もあり得るだろう。予言集としては「1」と「2」は同一の版本と見なせるかもしれない。第一部の冒頭にノストラダムスの肖像の版画が載っている。

3 Troyes, Pierre Chevillot, s.d. puis"1611"[1613頃]
現在リヨン市立図書館に保管されている標本 B 509836がGoogle Booksで閲覧できる。第一部第二部第三部と独立して電子データ化されているが元は一冊の合本だったようである。(a) 第一部の表紙 はAdjoustees... (b) 七巻42篇 (c) 「1600年から始まる」あり (d) 頁付は個別  (e) 第二部の表紙 RPOPHETIES (f) 「撰集」含む。第二部の微妙なアレンジ(c)にどのような意味があるのだろうか。第一部の冒頭にノストラダムスの肖像の版画は載っていない。そのため明らかに「2」とは別の時期に印刷されたものと見なせる。

4 Troyes, Pierre Chevillot, s.d.[1615頃] Ruzo n°55
この標本は唯一リュゾの蔵書の情報しかない。インターネット上で公開されていないので中身の確認ができないし、ギナールも直接この標本にアクセスできていない。(a) 第一部の表紙 はTrouuez... (b) 七巻39篇 (c) 「1600年から始まる」あり (d) 頁付は個別  (e) 第二部の表紙 PROPHETIES (f) 「撰集」なし。予言集の第二部の巻頭に新たなタイトルページがついているという。予言集の表紙の記載の変更から次の「5」に近い時期の印刷と考えられる。

5 Troyes, Pierre Chevillot, s.d.[1617頃] Benazra n°40
ギナール旧分類では"Chevillot C1"。現在リヨン市立図書館の標本 B 511975 或いはボストン公立図書館の標本がインターネット上で公開されている。(a) 第一部の表紙 はTrouuez... (b) 七巻39篇 (c) 「1600年から始まる」あり (d) 頁付は連番  (e) 第二部の表紙 PROPHETIES (f) 「撰集」なし。 ボストン標本には第二部の表紙がないが頁の割り付けからするとあったはずだ。リヨン標本にはある。本全般の作りは「4」と同じだが頁の割り付けが第一部、第二部の連番で、花飾りも「1」,「2」,「3」とは異なっているため別の版本と見なせる。第二部の表紙のマークが四角のなかの太陽に変更されているのが特長的である。サンチュリ十巻91番の四行詩で1609年とある原文が1620年に改竄されている。教皇選挙を想定した数年前の印刷と見ると1617年頃というのは十分説得力がある。ギナールはここを起点として版本の系譜から各標本の年代を推定したのだろう。

6 Troyes, Pierre Chevillot, s.d.[1866頃] Ruzo n°54
1866年頃パリの書籍商ドラリューによる復刻版。アメリカ議会図書館の標本が公開されている。(a) 第一部の表紙 はAdjoustees... (b) 七巻42篇 (c) 「1600年から始まる」なし (d) 頁付は連続  (e) 第二部の表紙 PROPHETIES (f) 「撰集」含む。さらに「ジョゼフ・ムーの予言」が増補されている。(363-453頁)手元にある1608年のムーの予言の復刻本と比べるとテクストの構成はほぼ一緒だが年代のサイクルが過去に遡った形になっている。ベースは「2」の版本だがリュゾの分類は復刻版に基づく推定で17世紀に出版された標本はないと考えられる。書斎に腰掛けるノストラダムスの肖像が載っている。

7 その他のシュヴィヨ版
1903年にアンリ・ドューシェにより他の素材を含めた形で再版された。1939年には転記された安価なペーパーバックがポール・エドゥアールにより出版されている。1981年にはニースでドラリューの復刻本が出版されたが、「撰集」と「ムーの予言」は省略されている。1668年アムステルダムで出版されたジャン・ジャンソン版との原文異同やプレザージュを取り入れている。表紙にはドラリューの本に載っているノストラダムスの肖像が使われている。なおインターネット上の書店で販売されている標本は「2」と同じもののようである。価格は2000米ドルと相当に高価である。