アンチ・ノストラダムス2008/06/30 23:06

ノストラダムスに対して批判的な人達というのはいつの時代にも存在する。日本では奇妙奇天烈な予言解釈者たちを笑い飛ばすといった、と学会の山本弘著『トンデモ ノストラダムス本の世界』を思い浮かべる人も多いだろう。もっともノストラダムスと同時代にも予言に対して批判的に攻撃する本が印刷されている。その仕方は様々である。1560年のアントワーヌ・クイヤールは、この世のどんな人間でも未来を予言することはできない、当たったように見えても単に偶然の域を超えないと論理的な批判を行った。一方では新教徒側からの悪意に満ちた誹謗文書によりモンストルダムス(怪物とノストラダムスの合成語)と名指しされたこともある。アンチの質、量も十人十色なのである。

今回入手したのが1940年に出版されたジョルジュ・アンクティユのL'anti Nostradamus Ou Vrais Et Faux Prophètes (反ノストラダムス或いは本物と偽物の予言)である。本の題名を見てわかるようにまさしくアンチ・ノストラダムスの本である。1930年代は第二次世界大戦前夜ということもあり、多くの著名な注釈者が出た時代である。ピオッブ、フォンブリュヌ博士、アミオー、リュイルなど。この本ではそうした予言解釈に対して辛辣な批判を展開している。ベナズラによると何箇所かに政治的なメッセージも含まれている。この本の出版された前年にヒトラー率いるナチス・ドイツがポーランドに侵攻して第二次大戦が勃発している。

どういうわけか、表扉には占い師にトランプ占いで診てもらっているヒトラーの風刺画が載せられている。当然ながらヒトラーを意識した記述も多い。まだ詳細な中身は読んでいないが、当時のフランスにおけるノストラダムス現象を捉えるには何らかの役に立つかもしれない。同時に批判の質についても面白そうである。表紙には19世紀にアルベール・デューラの描いた版画が見える。