運命の女神―その説話と民間信仰2008/06/14 14:16

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4560024588.html
ロルフ・W・ブレードニヒ/竹原威滋 訳 運命の女神―その説話と民間信仰 白水社 2005年 を読んだ。ノストラダムス予言集には「死」という言葉が頻繁に現れる。試しにデュフレーヌの『ノストラダムス辞書』を引いて数えてみたところ、なんと142篇の四行詩に「死」に関連するmors、mort、morte、mortel、mortsの単語が出てくる。全体の一割を超える四行詩に取り入れているのは、ノストラダムスが予言のイメージ化を図るときに人間の死というものを重要なモチーフと考えていたからだろう。人間が自然の成り行きの中で予知できない特別な状況に遭遇したとき運命という概念を持ち出す。特に苦しみ、悲しみ、絶望の淵に置かれたとき、これまでのすべての出来事が避けれないこの世の節理と見なしたくなる。

本書は運命の女神にまつわる伝説を口承資料と祭祀を中心に民俗学的に考察している。予言集の死のモチーフとリンクしているのが「第1部 運命の女神の民間説話」のなかのヨーロッパの定められた死の運命伝説である。テーマを13の項目に分類し、死の運命に関する民話を網羅的に収録してその共通のエッセンスを鋭く考察している。14頁には運命の女神の説話分布図として、井戸における死と落雷による死が載っている。一例を挙げると、ノストラダムス予言集の百詩篇4-53には「 F 井戸における死」との共通点も見受けられる。この四行詩は1555年初版マセ・ボノム版の一番最後に置かれている。「逃亡者たちと追放者たちは呼び戻される・・・息子は最悪にも井戸で溺れ死ぬ。」説話のアウトラインは、ある家に訪問者あるいは旅人がやってきてその家の息子が井戸で死ぬことを予言しその通りになるというもの。

この話自体はいろんな民族(スラブ民族、ロマンス民族、バルト諸族、その他のヨーロッパ諸民族)において様々なヴァリエーションを持っている。井戸における死の伝説は東ヨーロッパの運命伝説の一つであり、地域的にはフランスやイタリアまでは届いていない。しかしながらノストラダムスが見聞きした話のなかでこの説話を取り入れて詩を書いた可能性もある。他のテーマを調べてみるのも案外無駄ではないだろう。