ルネサンスの活字本2007/10/08 23:41

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4772005188.html
E・P・ゴールドシュミット 高橋誠訳 ルネサンスの活字本 活字、挿話、装飾についての三講演 国文社 2007年 の「第一章 活字体」を読んだ。この本は一般の書物史とは少々趣きが異なり、ルネサンス期における書物の転換点をあるテーマに絞って講演したものである。今まではノストラダムス予言集のテクスト、すなわち装飾や活字体、書物の体裁をまったく無視した原文のみを考慮していた場合が多かった。しかし予言集をルネサンス期に登場した書物と見做せばいろいろな見方もできる。そういえばちょっと前にマリオが1608年刊「活版印刷の組版に関する論考」の再版について紹介していた。

もともとヨーロッパでは古写本の字体にはゴシック書体が日常的に用いられていた。15世紀イタリアにルネサンスの風が吹き始めた頃、人文主義者たちがゴツゴツとした結屈なゴシック書体に代わり明晰さと優雅さ重視したローマン書体を生み出した。1430年頃のことである。その後活版印刷技術が1450年頃発明されてゴシック体活字とローマン体活字が印刷する本に応じて使い分けられるようになった。前者は聖書や祈祷書などの宗教書、後者はラテン語の古典的著作などの人文書である。ローマン体活字が完成して刊行物のなかで最終的に大勢を占めるようになったのは1525年を過ぎたところ。

1555年に初版の出た予言集ももちろんローマン体の活字で組まれており、以後刊行された予言集もローマン活字体で印刷されている。当時英国では自国で刊行する書籍は極端に少なくアントウェルペン、ケルン、リヨン、パリを介して供給されていた。しかし英国の著作ではローマン活字体が使われるのが大陸よりもかなり遅れてだそうだ。どうりで英語版の1559年の暦書や1560年のウィリアム・フルクの著作などはゴチック体活字で組まれているわけだ。ゴチック活字体の本は読み慣れてないせいもあって非常に読みづらい。