アナトール・ル・ペルティエの予言集校訂テクスト考 その1 ― 2018/08/19 21:52
P・ブランダムール校訂 高田勇・伊藤進編訳『ノストラダムス予言集』(岩波書店、2014年)の「序 ノストラダムス『予言集』校訂の歩み」を読むと、19世紀の注釈者アナトール・ル・ペルティエの名前が登場している。
こうした状況のなかで、さまざまな怪しい諸版本を消去していった末に、比較的優れたテクストと評判のアナトール・ル・ペルティエのエディション(1867)すら、1566年版、1568年版というテクストに基づいていると称してはいても、結局は18世紀の怪しい二つの版に従っていることが明らかになっている。
この本では18世紀の怪しい二つの版がどういったものなのか詳しい説明はなされていない。ノストラダムス研究においてル・ペルティエの名前を知らない者がいないほど著名な注釈者であり信奉者である。1867年に出版された Les Oracles de Michel de Nostredame (ミシェル・ド・ノートルダムの神託集)は二巻構成となっている。第一巻では、序論、ノストラダムスの伝記、ノストラダムスのサンチュリに関する書誌研究、テクストに関する注記、四行詩の解釈編 が含まれている。第二巻はノストラダムス予言集の校訂テクストを掲げて異文を比較したり語釈を付記している。
セクションⅠのタイトルは「ピエール・リゴーのテクスト(リヨン、1558年)、ブノワ・リゴーの異文を付記(リヨン、1568年)」、セクションⅡのタイトルには「ピエール・リゴーのテクスト(リヨン、1566年)、ブノワ・リゴーの異文を付記(リヨン、1568年)」となっている。このル・ペルティエの校訂テクストが長きにわたってノストラダムス予言集の権威のあるテクストとして受容されてきた。日本でもヴライク・イオネスクの予言解釈を紹介した竹本忠雄氏が『予言のすべて』(日本文芸社、1996年)でこれをそのまま受け入れた解説を行っている。
その次に出たなかで最も信頼できる完全版としては、1558-1666(sic)年にリヨンで出版されたピエール・リゴー編纂の『ノストラダムス神託集』(sic)をもって止めをなす。これはもともと上下二巻本に分かれて出されたもので、それがのちに諸版において一本化され、今日われわれの知るような形となった。(85頁)
ここ30年来のノストラダムスに関する書誌学的研究の進展により、現在ではル・ペルティエのテクストは本物の初版本のテクストではないことが明らかになった。竹本氏の解説も書誌学的な見地からまったく支持できない。ただし、ル・ペルティエの予言集のテクスト分析の手法は今日の実証的なテクスト研究のモデルになったとはいえる。現在もル・ペルティエの著作は再版されているし、オリジナルの画像はインターネット上で閲覧(第一巻、第二巻)することができる。
この二巻本の表紙にはこう書かれている。(画像参照)

1゜ Le Texte-type de Pierre Rigaud (Lyon, 1558-1566),
d'après l'édition-princeps conservée à la Bibliothèque de Paris,
Avec les Variantes de Benoist Rigaud (Lyon, 1568)
et les Suppléments de la réédition de M.DCV ;
Avec les Variantes de Benoist Rigaud (Lyon, 1568)
et les Suppléments de la réédition de M.DCV ;
1 パリの図書館に所蔵されている原典に拠るピエール・リゴー版(リヨン、1558-1566年)の原文。
ブノワ・リゴー版(リヨン、1568年)の異文と1605年改訂版の補遺を付記。
Les Oracles de Michel de Nostredame のタイトルページに1558-1566年とあるのは、第一部のセザールへの序文と詩百篇一巻から七巻が1558年に出版されたテクスト、第二部のアンリ二世への書簡と詩百篇八巻から十巻が1566年に出版されたテクストと見なしているためだ。ル・ペルティエは著書のなかでパリの図書館(王立図書館、現フランス国立図書館)に所蔵されている予言集の標本の文書番号がY,n°4621であると記しており、現在もそれをGallicaで閲覧することができる。フランス国立図書館の文書番号はRes Ye 1784-1785 である(画像参照)。

(続く)
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