黒魔術の手帖「星位と予言」の初出2018/04/27 20:52

先日、黒沼健氏の「七十世紀の大予言」の初出を紹介したからには澁澤龍彦氏の『黒魔術の手帖の「星位と予言」の初出にも触れておくべきだろう。『黒魔術の手帖は、もともと1960年8月から61年10月までミステリー雑誌「宝石」誌に連載された文章をまとめたもの、と序文に書かれている。そのなかにノストラダムスのことを紹介した「星位と予言」というエッセイが収録されている。以前、このブログでも澁澤龍彦とノストラダムスで参照文献を含めて概要を紹介したことがある。その初出についてはドラコニアのウェブサイト(現在リンク切れ)の引用で「宝石」1961年4月号と見なしてきた。

今回、国会図書館で当時の「宝石」のマイクロフィッシュを調査したところ驚くべきことが判明した。念のために1960年8月号から順番にマイクロフィッシュを確認していったが1961年4月号には載っていなかった。さらに閲覧を進めていくと、該当号は1961年8月号で、黒魔術の手帖13「占星家ノストラダムス」渋沢竜彦、となっていたのだ。その後の単行本と比べてそれほど大きな内容変更はないが、エッセイのタイトルが「星位と予言」に変更された。すべての号の「宝石」を細かく調査したわけではないが1960年8月から61年10月までというと全部で15編のエッセイとなる。

単行本では「星位と予言」は9番目になっており、書籍化にあたり全体的に構成やタイトルを見直したのだろう。1960年8月号からの初期の頃の目次には「黒魔術の手帖」と併記してエッセイの表題も載っていた。理由は不明だが後になると目次に「黒魔術の手帖」しか載らなくなっていった。1961年8月号でも同様である。さらに目次の表記は「黒魔術の手帳」となっており漢字の使用に混乱が見られる。著者名の表記も単行本では難しい漢字が平易なものに書き換えられている。文章自体は単行本とほとんど差異はないが注目すべきは挿絵の構成である。比較をまとめると下のようになる。

【雑誌版
図1 ノストラダムスの肖像・19世紀の絵
図2 ノストラダムスの肖像・18世紀の銅版画
    占星学者・17世紀の銅版画(図番もなく単行本ではカット)
図3 ウィリアム・リリィの肖像画(単行本ではカット)
図4 占星術師・ロバート・フラッドの書より
図5 注記なし(円形のホロスコープ)
図6 注記なし(距形のホロスコープ)
【1961年単行本版
第36図 占星術士・ロバート・フラッドの書より(師→士になっている、文庫版も同様)
第37図 ノストラダムスの肖像。19世紀
第38図 ノストラダムスの肖像18世紀(下部の四行詩がカットされている、文庫版も同様
第39図 十二区分図。I
第40図 十二区分図。Ⅱ

挿絵の構成の比較からすると、当初澁澤氏はエッセイのタイトル通りノストラダムスをメインで書こうと目論んでいたふしがある。当時はノストラダムスの知名度が低かったのと、占星家と紹介するまでにそもそも占星術とは何ぞやの説明に頁数を費やしたことで全体のバランスが若干悪くなった。そのため単行本に組み込むときに「星位と予言」に変更したと思われる。澁澤氏は「60年代の私は悪魔学やオカルティズムに夢中になっていた」と書いているが連載完結と同時に単行本の出版というのは最初から織り込み済みだったのだろう。黒魔術の手帖「星位と予言」の版本の流れを下に示しておく。

「宝石」1961年8月号(宝石社、1961)黒魔術の手帖「占星家ノストラダムス」
黒魔術の手帖(桃源社、1961.10.5)「星位と予言」
黒魔術の手帖 神秘と怪奇の博物館(桃源選書、1966.4.20)「星位と予言」
澁澤龍彦集成 第1巻(桃源社、1970)手帖シリーズ篇:黒魔術の手帖「星位と予言」
黒魔術の手帖(河出文庫、1983.12.3)「星位と予言」
澁澤龍彦全集〈2〉(河出書房新社、1993.7) 黒魔術の手帖「星位と予言」
黒魔術の手帖(文春文庫、2004.2.10)「星位と予言」
黒魔術の手帖(河出文庫、2009.4.20)「星位と予言」