第68期名人戦第三局はまたも横歩取りに2010/05/06 23:28

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長かったゴールデンウィークの連休も明けて今日からまた通常の生活に戻る。休みといっても日々の育児や家内の両親が遠路はるばる訪れたり、内祝いの手配やらでのんびりする暇もなかったが、まあまあ充実していたといっていいだろう。休みが開けてすぐに第68期名人戦第三局が始まった。ここまで羽生の2連勝。戦型はいずれも横歩取り。結果だけ見れば三浦に往復ビンタを食らわせた感じだ。もっとも羽生は、防衛もさることながら、研究家の三浦を相手に、持ち時間の長い名人戦でじっくりと横歩取りの将棋を考えてみたい、そんな心境なのかもしれない。本局は羽生の後手番でまたしても横歩取りに誘導する。三浦としてもこれを避けるのは気合負け、堂々と横歩を取る。

これを見て羽生-久保戦のゴキゲン中飛車の超急戦を思い出した。久保はこの戦型で羽生に5連敗だったが先の王将戦では奇跡的な終盤戦の読みで見事二冠に輝いている。今月号の将棋世界で久保はこれをチキンレースと面白い表現をしている。どこまで打たれても自分で行けると思っているうちはこの球を投げる・・・。今日の羽生の作戦を見た三浦の心情もこれに近いものがあったのではないか。自分の研究範囲である横歩取り、序盤研究には絶対の自信を持っている。これに喧嘩を売られて避けるようではチキンレースに敗れたに等しい。避けた時点ですでに勝敗が決してしまう、そんな風にも考えられる。横歩取りといっても三浦が8筋の歩を保留していたので流行の△8五飛戦法にはならなかったが、どこかで見たような展開ではある。

さて封じ手を考えてみる。まだ双方の金銀も低い陣形で桂馬の跳ねだしもこれからなので形勢互角としかいいようがない。37手目の▲3五歩は次に▲2六飛と回って後手の2筋に歩を受けさせる狙いがある。そこでひとつの展開として△5三銀▲2六飛△2三歩が想定される。後手としては歩を打たされても△4二金右から△3一玉と囲えれば玉形の差で強い戦いが可能となる。明日は終盤までギリギリの戦いが見たい。三浦の粘り強さが発揮できれば念願の1勝もかなえられるだろう。

第68期名人戦第三局は羽生が勝ち防衛まであと1勝2010/05/07 23:21

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三浦は久しぶりのタイトル戦、それも名人戦という大舞台であっという間に3連敗、もう後がなくなってしまった。それにしても対羽生戦13連敗というのはいくらなんでも負けすぎである。羽生と三浦、技術的にはそんな大きな差があるわけはない。トッププロの場合、ほんのわずかな差が大きな結果になって現れるのが将棋というゲームの残酷性であろう。本局は終盤で三浦にもチャンスがあったような感じがする。111手目▲1五角は一見決め手に近いような痛打である。羽生はここで△3三角と合駒をするが本譜のように▲5一飛成から王手で抜かれるのは痛い。王手で迫り手順に桂馬を外したが羽生は1分将棋になりながらも正確に寄せ切った。結局三浦は得意の終盤の競り合いで敗れたことになる。たぶん今頃は茫然自失の状態だろう。

封じ手の予想は外れて羽生の構想は△4四銀と左の銀の繰り出しであった。浮いた3五歩に狙いを定めた手であるが自陣が薄くなるので考えづらかった。この銀を使うとなれば玉は将来△5二玉から右辺で遁走する展開になりやすい。先手は金銀を自陣に置いたまま桂馬も跳ねずに角と歩だけで攻める。理屈からすれば少々無理攻めではないかと思われるが、自玉が安泰であればと金を作ってぼちぼちも間に合うのかもしれない。ちなみに57手目▲3二との局面で東大将棋にかけてみると先手優勢というご神託が出ていた。と金で桂香をさらって駒割は角と金桂香の三枚替えだが歩切れが痛い。75手目▲5六飛とまわったところでは先手のほうが忙しい。桂頭に傷があるし飛車も狭く角で狙われそうだ。この辺りに三浦の誤算があったように思う。

次の第四局はこれで決着がついてしまう最終局になるかもしれない。三浦は後手番である。再び横歩取りに命運を託するか、別の戦法を選択するか、興味は尽きないが、心情的には三浦に早く1勝をさせてやりたい。予想として横歩取り△3三桂戦法を挙げておこう。おそらく外れだろうけれども・・・

ノストラダムスの墓2010/05/18 21:52

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htmy/1589825314.html
紀伊国屋からノストラダムスの新刊書"The Grave of Nostradamus"(ノストラダムスの墓)という本が届いた。William NormanとRaymond J.Nabusの共著である。当初はノンフィクションかと思っていたが、実際に届いた本を見るとテーマが「哲学/ミステリ」とあり、ノストラダムスを素材にしたペーパーバックの小説である。ノストラダムス予言集、百詩篇9-7には墓にまつわる予言が登場する。「発見された墓を開く者、それをただちに閉じぬ者、その者に災いが降りかかるだろう。証明は難しいだろう、彼にとってブルトンかノルマンの王になるのが良いか否かの」この詩に出てくる墓をノストラダムス自身の墓と見なして墓荒らし除けの呪文のように受け取る解釈がある。まだ詳しくは読んでいないが、本書にその詩が挿入されているところを見ると、ノストラダムスの墓をテーマにしたフィクションといえる。

本書の裏面のレビューを読むと、「ノストラダムスの予言の謎を解く鍵はどこにあるのか。まだ見つからない秘密の手稿はどこにあるのか。予言の知られざる秘密の墓のなかで静かに眠っているのではないか。」なかなか想像力をかきたてられるシチュエーションである。もっともノストラダムスの未発見の予言をテーマとした小説は多い。先に紹介したマリオ・レディングの小説もそうだし、レナードの『ノストラダムスの遺産』もノストラダムスが発見した運命方程式を書き記した手稿を登場させていた。さて、その最大の秘密とは何か。それは定番の人類滅亡にまつわる予言である。運命の2014年6月1日午前9:15を迎える。地球に訪れる塵の雲がすべてのものを一掃する。太陽系の破滅である。唯一神を除いて生き残るものはいない・・・一気にスペクタクルの映画を見ているかのような壮大なスケールへと展開する。

この本の邦訳が出るかどうかはわからないが、ちょっと読んでみたいような気もする。そうそう、先の四行詩の解釈だが、ラメジャラーは以前ソースとして14世紀のエドワード黒太子にまつわるフロッサールの年代記を挙げていたが、2009年現在、なぜかソース不明とコメントを変更している。詩の前半だけ見れば、エジプトのツタンカーメンの王墓発掘に関する呪いと受け取れないこともないが、結局拡大解釈すればどこにでもあるような話なので、読み手に対しイマジネーションを喚起させて解釈を委ねている。実はそれが予言者の狙い通りなのかもしれない。

第68期名人戦第四局は後手三浦が力戦形に誘導2010/05/18 23:35

http://www.asahi.com/shougi/news/TKY201005180093.html
最近はめっきり更新も減ったのに毎日一定のアクセス数があるのに驚く。先週の土日は地元の神社へお宮参りとスタジオでの記念写真、病院での一カ月検診も終わり、当面通常の生活が続く。とはいえ、今大阪へ出張中。宿泊先のホテルでこれを書いている。本日から第68期名人戦第四局が始まった。見どころは三浦が再度横歩取りを選択するのか、三浦が練習していた封じ手を行うかといったところ。上のウェブを見ると、三浦が4手目△3二金と上がり角道を止める作戦を採った。一見消極的ともいえるが羽生の研究を外して自分の土俵に引っ張り込んでペースをつかもうという意図が伝わってくる。羽生から見れば本命の作戦ではないだろうが、ややありがたいと思っているのではないか。この戦型は後手が玉側に手数をかけているので攻めの形が作れていない。

つまり作戦の選択肢は先手側にあり、後手はひたすら受けまくり、あわよくば入玉を狙うという、長い持ち時間の将棋では非常にストレスのかかる展開になりやすい。三浦があえてこの将棋を選んだのは最終局になるかもしれない本局はじっくりと自分の力を出し切りたいとの思いからだろう。それがうまくいくかどうかは神のみぞ知る。まあ明日には結果がでてしまうのだが。先手の羽生の指し回しは一見自然な指し手に見えるが、中盤に向けて駒組み勝ちを目指すべく膨大な想定局面が頭の中に渦巻いていることだろう。素人目には先手は一方的に玉形を固くできそうなので穴熊を目指してみたい。封じ手の局面、またしても羽生の封じ手で四局連続である。これまでも三浦に封じ手のチャンスはあったが、避けているとしか思えない。特に局面での駆け引きというわけでもなさそうで、本局を凌ぐことで次の機会を狙いたい。

封じ手予想だが、銀取りの局面なのでここは流石に逃げる手以外にはない。90%以上▲4七銀。これに対して後手は△2五歩~△2三銀のような感じの徹底して手厚く負けにくい展開にするか。あるいは少し攻めを見せて飛車先の歩を伸ばすか。なんとか名人戦を盛り上げるためにも明日は三浦の踏ん張りが見たいものだ。

第68期名人戦は羽生が4連勝で防衛、3連覇達成2010/05/27 01:41

http://3rd.geocities.jp/shogi_kifu/index.html
気がつくと今月はほとんどブログを更新していない。何か毎日の日常生活に追われ、あっという間に日が過ぎていく感じがする。どうしても赤ん坊に手をかける時間に取られてしまい、ゆっくりモノを考える余裕がなくっているのかもしれない。日曜に届いた週刊将棋を見ると、羽生の名人防衛については圧巻の防衛とある。また毎日新聞では円熟の栄冠ともある。結果は、4連勝と終わってみれば羽生の強さばかりが目立ち三浦の力不足が明らかとなってしまった。もちろん三浦はA級順位戦でトップの成績を取って晴れ舞台に登場したのであるから弱いわけではない。しかし将棋の内容を見ると、三浦が得意としているはずの終盤の競り合いにことごとく敗れている。改めて羽生の懐の深さ、終盤の正確さは他のトッププロと比べて一定の差がある。

正直にいうと、今回の結果は順当に三浦が負けたとしか言いようがない。その後の大和証券杯ネット最強戦でも羽生に敗れており対羽生戦15連敗。これはひょっとすると連敗記録のワーストではないか。一言で15連敗といっても、羽生と15局対局するだけでも大変である。羽生のタイトルに挑戦しない限り、トーナメントやリーグ戦などいいところまで勝ち上がったところで叩かれる。今の三浦からして見ればどうしても越えることのできない巨大な壁に映るだろう。14年前、羽生七冠の一角を崩したというのが信じられない。三浦は当時無敵だった羽生にまぐれでも勝つことができた。それから経験を積み重ね、間違いなく実力はアップしているはずなのになぜ通用しなくなったのか。それはやはり勝負の怖さを知ってしまったからだろう。いい将棋を安全に勝ちたいというのは人間の心理として当然である。

ところが羽生は少し形勢に差がついても決して離されることなくピタッとくっついてくる。そして終盤の一瞬のスキにあっという間に抜き去ってしまう。このスキを見せては駄目だ。最近羽生に勝っている深浦、久保は終盤も自分の読みを信じて相手を恐れることなく踏み込んでくる。三浦も今後はこういったメンタルな部分を重視する必要があるだろう。羽生以外の対戦相手にはそれができていたのだから。三浦にはもう一皮むけてタイトル戦の舞台に戻ってきてほしいものだ。