第3期マイナビ女子オープン第二局は甲斐が勝って連勝2010/04/12 23:12

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矢内の不調はまだまだ続いている。まるで長いトンネルに入りこんでしまって明るい世界に抜けられない、そんな感じを受ける。本局も第一局と同様に終盤の一番大事なところで失速して簡単に土俵を割ってしまった。もっとも甲斐の指し手には致命的な悪手というのはなく、常に80点以上の手を積み重ねていることも見逃せない。マイナビ女子オープンは5番勝負、しょっぱなから2連敗するとあっという間にカド番である。甲斐はあと1勝で初タイトルの奪取となる。本局の序盤はゴキゲン中飛車に対して居飛車が▲7八金から割と穏やかな持久戦となる、よく見る形である。居飛車側は金銀を集結させて6筋の位を取ってじっくりと構える。後手は金を4二に置いたまま左銀を7三まで引きつけた。

45手目▲5五歩から中盤の戦いに入る。矢内の57手目▲5三角がゴツンと鈍い音でもするかのような重たい手。アマチュアならよく見るがプロが指すのをあまり見たことがない。解説にもあるように▲5三歩成から▲4二角が第一感である。本譜は▲5三歩成とと金はできるが大事な手駒の角と玉から離れて配置されている金との交換はどうしても先手が損に思えてしまう。よっぽど決め手でもあれば別だが、この手あたりに矢内の不調の影が見え隠れする、といっては言い過ぎだろうか。対して甲斐の60手目△5六歩は筋のいい好手。ここで矢内の手が止まったということは軽視していた証左であろう。63手目▲6三歩と垂らしてと金作りを目指すがいかにも振り飛車に余されそうな形である。

そして終盤千日手模様の局面が出現したとき、甲斐は84手目△7五桂と思いきった打開をしてきた。ここらの勝負所での積極性もいい方向に働いたのではないか。逆に矢内の87手目▲7七同金が敗着。肝心なところで読みの正確さを欠いた。以下は甲斐が先手玉を的確に寄せ切った。矢内はこれからはトーナメントの気持ちで立ち向かうとコメントしていたが、何かのきっかけで狂いの生じた歯車が元の状態に戻るかもしれない。次は何としてでも1勝を挙げて500万争奪戦を盛り上げていってほしい。

第3期マイナビ女子オープンは3連勝で甲斐が新女王に2010/04/19 23:56

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矢内は最後まで勝ち運に見放されていた。本局も181手と長手数の末に終盤競り負けてしまった。これで矢内はタイトルを失い無冠に転落、一からの出直しとなる。通勤中の電車のなかでネット中継に接続したときにはすでに終了していた。矢内は序盤のぎこちなさが目に付いた。甲斐のほうも小ミスはあったにせよ、終始積極的な指し廻しでリードを奪った。お互い切り合いを好まない棋風のせいか、じっくりとした展開で押したり引いたりの駆け引きが長く続いた、根競べの感じもする。一局の将棋を勝ち切るには派手な決め手よりも、地味だが平均点以上の指し手の積み重ねで決して大きなミスを犯さないことが大切なのである。甲斐の平均的に安定した指し廻しにはそんな印象を受ける。

ここまで2連勝の甲斐は先手で三間飛車の作戦を採用。角道を止めるノーマル三間飛車は新鮮な感じもするが、コメントによると対居飛車穴熊には藤井システムとの組み合わせを用意している最新形であるらしい。これまで矢内は第1局で居飛車穴熊、第2局では6筋位取りと得意の銀冠を用いなかった。ここで負ければタイトルを失うという正念場ではさすがに居飛穴はやりづらい。そこで銀冠に構えたのだが、先手にすんなり石田流の好形に組まれては作戦負けである。しかしこの程度の不利感で勝負が決するほど将棋は簡単ではない。中終盤粘り強く指せば相手もどこかでミスして追いつき追いぬくことができる。矢内の基本戦略はこんな感じなのかもしれない。が、それも正確な終盤力があってこそだ。

先手が寄せをもたついた155手目▲3四歩に銀を逃げたのが敗着か。△3四同銀▲同桂と進めば後手はなかなか寄らない。ここが最後のチャンスだった。これを逃しては万事休す。甲斐は後はきれいに寄せ切った。初タイトルの女王を3連勝で奪取は見事である。矢内には今後の巻き返しを期待したい。

第68期名人戦第二局は三浦が横歩取り△8五飛に2010/04/20 23:28

http://www.asahi.com/shougi/news/TKY201004200104.html
第68期名人戦第二局は、第一局に続いて横歩取り△8五飛戦法となった。これは後手番の三浦が誘導したものである。研究家の三浦は自分の研究の網に羽生を捕らえようと用意周到に策を練ってきたと思われる。ただし、横歩取り△8五飛は作戦の選択権が先手側にあるため、後手はすべての形で互角以上に戦える対策を持っていないと指しこなせない。羽生の作戦は新山崎流。これも一時期先手の勝率が抜群で横歩取り△8五飛自体が激減したこともあったが、有力な変化が発見されたのか最近また復活の兆しを見せている。三浦も当然想定される指定局面の一つとして練ってきたはず。

さて封じ手までの指し手は過去もに実戦例があるようで先手が勝っているとのこと。もちろん三浦も十分頭に入っている。そこでどこで変化するかが大きなポイントとなる。本来は封じ手の一手を新手に当てるというのが作戦的に有力である。ところが本局は羽生が序盤から長考、持ち時間に大きな開きが出た。三浦は研究している序盤を飛ばして、終盤を乗り切ろうとの作戦であるのはわかりやすい。予想手は▲3九歩以外に思いつかない。そこでの後手の指し方が難しい。玉を捌くというテクニックが8五飛戦法とセットになっている。▲5三桂成をまともに食らってはいけない。だから玉を移動する感じかもしれない。△2五飛車成と銀を取るのは一気に後手番が敗勢となる。

三浦は絶対何か新手を認めている。明日はその新手のお披露目と有効性が明らかになる。

第81期棋聖戦挑戦者決定戦は深浦が渡辺を下した2010/04/28 23:48

http://live.shogi.or.jp/kisei/
ここしばらく本ブログの更新が滞っていたが、それでも毎日アクセスしていただいている方がいるのはありがたい。しかしながら同時に申し訳ない。赤ん坊が生まれてちょうど20日目。当然のことながら何かにつけて生活のリズムも変わってしまった。それでも本ブログは少しずつでも続けていこうと思う。

本日第81期棋聖戦挑戦者決定戦が行われた。タイトルホルダー同志の激突という申し分のないカードである。深浦は二日制のタイトル戦には登場しているが一日制にはこれまで縁がなかった。渡辺は棋聖戦は一度佐藤に挑戦しているが奪取失敗している。両者とも羽生にタイトル戦で勝っている実績があるのでどちらが挑戦者に名乗りを挙げても面白い勝負になりそうだ。上のサイトでは棋譜中継と中継ブログを読むことができる。昼の時点で一度アクセスしてみたが戦型を見て驚いた。渡辺が後手番で角交換振り飛車を指している。それも一旦4筋に振ってから2筋に振り直すという手損で序盤の乱戦模様を避けている。

もともと渡辺は居飛車党、しかも最近では後手番でも堂々と△8四歩を突く王道を歩んでいただけに随分と思い切った作戦に見える。もっとも対稲葉戦では後手番でゴキゲン中飛車を指していたこともあり、まったくの想定外というわけでもないが、大事な一戦で不慣れな戦法を選ぶという度胸の良さには感心した。事前に十分な用意をしてきただろうが、やはりというべきか指し手にはぎこちなさが見え隠れする。結果も勝負どころがないままに完敗。渡辺の持ち味である終盤の競り合いにならず、深浦が手堅く押し切った格好となった。渡辺は複数冠を目指す大きなチャンスだったが勝負弱さが出てしまった感じだ。

深浦もまた複数冠のチャンスである。羽生の一日制のタイトル戦の強さは無類であるが、とはいえ付け入る隙もあるはず。是非とも内容の濃い勝負を期待したい。渡辺は無念の挑戦者決定戦での敗退だが、ブログを見るとさっそく敗戦の弁が書き込まれている。居飛車党の後手番での悩みが伺われるが、羽生のような総合的な万能の大局観を身につけることができればさらに飛躍していくことだろう。