マグロ争奪将棋大会に遠征した2007/12/02 23:40

神奈川県の三浦海岸で行われる恒例のマグロ争奪将棋大会に初めて参加した。社団戦のチームメイトとともに気合を入れて前泊して臨んだがB級で二連敗であえなく失格。午前中の段階で受付に置いてあったマグロの山からのおすそ分けは、はかない夢と消えた。残る勝負は福引箱の抽選。ここでは辛うじて大根をゲットした。いろんなことがあって楽しい土日であった。前日宿泊した宿には他の将棋関係のグループもいた。そこと合同で指すことになったが、学生風の若者二人は強すぎてまったく歯が立たない。後で聞いたらテツとハジメと呼ばれている奨励会の有段者であった。アマ相手にも丁寧な感想戦を行うなど確かにプロの卵であると感じた。

当日LPSAの女流棋士が審判として世話役を行っていたのがちょっと新鮮な光景である。通常ならアマ大会にプロを頼む場合には主な仕事は開会の挨拶や指導対局ぐらいなもの。今回は女流棋士自らがそれぞれのクラスを担当して進行役の中心にいた。曲がりなりにプロを名乗っているのだから普通は手合い係のような雑事を仕事として行うことはない。連盟の女流と比べて積極的に営業し自分たちのフィールドを広げている。実行委員の説明では彼女たちは手弁当で来ていると強調していた。まさかノーギャラではないだろうが交通費程度なのかもしれない。

LPSAの代表として石橋女流王位が挨拶をしていたが、将棋のプロとは思えないほど(失礼!)立派な内容だった。週刊将棋の今週号にもインタビュー記事が載っているがある時期にブログで公開されていた連盟とのオフレコの話をネット上に暴露した人と同一人物とは思えないほどの成長ぶりを見せている。今回のタイトル奪取はそうしたメンタルな部分の充実も多分に影響しているのかもしれない。

フランス文学小事典2007/12/03 23:57

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4255003874.html
岩根久・柏木隆雄・金崎春幸・北村卓・永瀬春男・春木仁孝・和田章男【編】 フランス文学小事典 朝日出版社 2007年 を購入した。従来のフランス文学の事典といえば分厚い百科事典のイメージがあるが、本書は非常にコンパクトなので読みやすい。帯には「フランス文学の入門にはこの1冊で十分です」となかなかのセールスフレーズが踊っている。収録作家は274名だがひとつの項目はだいたいページの半分くらいに圧縮してある。それでもフランス文学に登場する主要な作家は網羅されており、その記述もわかりやすく書かれているので各々コラムとして独立して読むこともできる。

この本をチェックした一番の目的は、当然ながらノストラダムスがフランス文学のなかにどう位置づけられているのかにある。予言集が文学的な作品としてフランス文学として認知されたのは、1999年に岩波書店より出版された『ノストラダムス 予言集』と『ノストラダムスとルネサンス』に依るところが大きい。本書の204頁にはノストラダムスの項が設けられていて晴れてフランス文学への仲間入りを果たしたわけだ。その内容は岩波の本に基づいた記述であり特に目新しいものはない。ただこの項でノストラダムスの作品として対象にしているのはあくまでも1555年に刊行された初版本(353篇の四行詩)だけのようである。

本文の最後に「20世紀末に至り学術的な批評校訂版も出版されユマニスト詩人としてようやく正当に再評価されつつある」というのは現在の状況を曖昧に物語っている。こうして日本でフランス文学のひとつとして位置づけされるのはうれしいことであるが、反面予言集の学術な研究はまだまだ発展途上の段階から幾分も進んでいない。ぜひともアカデミックな立場の研究者、在野の研究者も交えて盛りたててもらいたいと思う。

ウルフの「ノストラダムス、生涯と予言」1944年刊2007/12/04 23:49

ハーマン・ウルフの"Nostradamus, his life and prophecies"(ノストラダムス、彼の生涯と予言集)が届いた。この本は1944年に出版されたわずか39頁の小冊子である。ウルフの本は現在では言及されることは稀だがレオニのブックリスト98番に挙げられている。この1940年代というのは19世紀のウォードの解釈書の再版を機に英語圏で次から次にノストラダムスの関連書が現れた。アメリカにおいてはノストラダムスブームの先駆けとなった時代だ。レオニによればウルフの本は同じ英国人のジェームズ・レイヴァーのノストラダムス研究に刺激を受けて書かれたものという。本自体のボリュームも小さいしそういった意味では二番煎じともいえる。

表紙を見るとノストラダムスの名前を「予言者たちの王」と「王たちの予言者」が挟んでいる。何を意図しているのかいま一つはっきりしない。目次には 1 人間ノストラダムス 2 実現した予言 3 未来とは何か 4 ノストラダムスの技法 5 探究者のためのテクニカルデータ とある。ざっと目を通してみると過去の注釈者への言及が多い。一例として、18世紀初頭のル・ルーにはじまり、ジョベール、ギノー、ペルチエ、シャルル・ニクロウ、トルネ・シャヴィニィ神父にアベ・リゴー、本当に彼らの著作を十分に消化できているのかはまだわからない。そのなかでも特にリゴーの見解を重視している。

例の1999年の予言も取り上げているが、百詩篇10-73や10-74とごちゃまぜにした詩として紹介されている。ノストラダムスが世界の終わりの日付を明かした詩と見做す。55年後の1999年7月にはなんらかの大動乱が起こると書いているが、これは単にレイヴァーの発想を焼き直ししたに過ぎない。そんなに価値のある本ではないけれど、もう少し細かく読んでみたいと思う。

聖ヨハネとミシェル・ド・ノートルダムの作品の鍵2007/12/05 23:45

M.A.ド・ナントの著した"Clef des oeuvres de Saint Jean et de Michel de Nostredame"(聖ヨハネとミシェル・ド・ノートルダムの作品の鍵)という本が届いた。もともと1871年に出版されたものだが1983年に復刻版が刊行された。タイトルにある聖ヨハネの作品といえば新約聖書の最後に載っているヨハネの黙示録が思い浮かぶ。ノストラダムスの作品とは予言集であり、両者を比較しながら隠された鍵を見つけ出すというもの。23章に章分けされた396ページの大著である。アナトール・ル・ペルティエの『ノストラダムスの神託』が出たのが1867年であるからその4年後にあたる。2章の表題に「最初の注釈者トルネ・シャヴィニィ」とあるがペルティエへの言及は見られない。(本文にあるかもしれないがチェックできていない)

いろいろなカテゴリーの方面からヨハネとノストラダムスの作品の分析をしようとしているのはよくわかる。予言集の第二部では序文にあたるアンリ二世への書簡からして黙示録の終末のヴィジョンをモチーフにしている。もちろん百詩篇の最後の三巻も聖書に描かれた終りの時をテーマにした四行詩が多く見られる。日本でブームの火付け役となった『ノストラダムスの大予言』の初巻177頁以下に黙示録との関連性について簡単な紹介がある。そのためすでに第一次ブームの際に予言集と聖書の類似性を指摘した本が出現していた。『キリスト宇宙人説』や『バイブル大予言』では五島氏の訳文を全面的に受け入れた上で、単純にこの詩は聖書のこの部分と似ている等とした。

その後内藤氏は聖書の予言本を書くたびにノストラダムスに言及してきたが、しまいには『ノストラダムスと聖書の預言』(1986年)で自らノストラダムスを研究し自分で訳をつけて予言が聖書のコピーとの論を展開した。(内容の是非についてはここでは問わない。)海外でもノストラダムスの予言と聖書に関する本は後を絶たない。古くて新しい主題であるといえよう。

ノストラダムスのジャムの本2007/12/06 23:56

予言集を著したノストラダムスの最初の作品が当時の実用書といえる『化粧品とジャム論』(通称)であるというのは広く知られている。1979年にグーテンベルク・リプリントから出版された1557年アントウェルペン版の復刻本が有名である。ガリカでは1556年リヨン版のすべての画像データが公開されている。1985年に放映されたテレビ番組「大予言者ノストラダムスのジャムの味」で紹介されたジャムの本は、1981年にパリで出版された"Nostradamus, des Confitures", Presentation et adaptation Fabrice Guerin, Editions Olivier Orban である。この本は二部構成の『化粧品とジャム論』のうち第二部のジャム論のみ取り上げている。

最初に13頁にわたる解説者の序論が展開されている。1552年4月1日付の読者に対するノストラダムスの序文が続き、31章にわたる各論のテクストが載っている。何故か1556年版と比べてみると章立ての順番が入れ替わっていたりところどころ編集された跡が見られる。この本の特長として各章の最後の部分にコラムのような囲み記事が挿入されている。1556年版と異なり最後に置かれた献辞も省略されている。その代わりに付録として不明瞭な言葉の解説、古代の計量単位のような豆知識がついている。この本に書かれたレシピに基づいてジャム作りをすることもできる。先の番組では甘さと保存を担う砂糖のかわりに煮沸葡萄酒から糖分を抽出してジャムを試作していた。(同書IIII章)

番組で紹介された材料は、洋ナシ少々、ニンジン少々、桃二つ、メロン半分、ブドウ30房である。ノストラダムスのヒューマニズムの味、16世紀のちょっぴり悲しい味がするとプレゼンターの渡辺文雄氏は食した感想を表現していた。現在でも再現できるジャムの味というのは面白い。