「Mr.・サンデー」のノストラダムス2019/04/08 21:40

本当に久しぶりの更新となるが今でもアクセスしてくれている方がいるようでありがたい。最近は一時の忙しさからもようやく解放されてそろそろ再開しようかと思っていた矢先であった。昨晩インターネットに接続したところ Microsoft Newsのトップページに「ノストラダムスの予言」という見出しがあったので何事が起きたのかと驚いてリンク先のページを閲覧してみた。するとフジテレビの「Mr.サンデー」というバラエティ番組に、平成を振り返るといったニュースのなかで人類滅亡の年といわれた1999年(平成11年)のブームを取り上げた際に伝説の人五島勉氏への取材を行っていた。

番組のなかでは五島勉氏の『ノストラダムスの大予言』シリーズ全10巻が並べられていた。シリーズで600万部売れたというから億単位の印税を稼いだことになる。出版元の祥伝社にとってはまさにドル箱スターであった。初巻が出版されたのは1973年で今からもう46年も過ぎている。「ムー」の編集長の三上丈晴氏も登場して1999年過ぎた後はいわゆるオカルト業界でノストラダムスのことが話題に上ることもなくなり有力なネタをひとつ失ったようなものと述べていた。確かに1999年以後は2001年の一時的なブームを除けば、ほぞぼそとワンコインブックに取り上げられる程度であった。

しかし、すでに高齢となられた五島勉氏を無理やり引っ張り出して、なぜ今頃謝罪させようなどという企画が通ったのだろうか。司会者の宮根誠司アナウンサーが「子供の私は100%信じていました」と語っていることから、平成の振り返りにノストラダムスネタを押し込んだのではないかと思われる。五島氏はこれまで基本的にTV番組の取材は断ってきたが今回は声だけの出演ということに落ち着いたようだ。そこで語ったのは「子供たちには謝りたい。子供が読むとは思っていなかった。真面目な子供たちは考えてご飯も食べられなくなったり。悩んだり。それは謝りたいと思う」

昔の雑誌の取材でも本の読者のターゲットは若いサラリーマンにおいていたと語り、子供たちがこの本を読んで大きな影響を受けるとは想定していなかったというのは正直なところだろう。しかし、大人に対しては「ちょっと書き方を間違えて。初めに1999年って出てるでしょ。そっちのほうしか読まない。そこだけでみんな驚いちゃってね。最後は『残された望みとは?』という章をひとつとって書いてある。最後に救いもあるんだとそこに書いておいたのに、そっちは読まない、誰も」という。いやいや初版の赤背本でさんざん煽っておいてその後の青背本でトーンダウンしたことはお忘れなのか。

番組内で1999年人類滅亡解釈に影響を受けた人たちを面白可笑しく紹介している。なかでも岡田斗司夫氏は自宅に核シェルターが作られていたというからビックリ!。とにかく当時はオカルト界の大スターとしてノストラダムスの予言を皆楽しんでいたのだ。現在では未来を占うといった視点からノストラダムスの予言を取り上げることはほとんどない。最近出版された『ルネサンス・バロックのブックガイド』にも『ノストラダムスとルネサンス』が取り上げられているし、ホラポッロ『ヒエログリフ集』も日の目を見た。そろそろノストラダムスの本格的な研究書の登場を期待したいところである。

ノストラダムスが予言していた「東洋人の大軍隊」2019/04/13 22:33

今日たまたま本屋で手に取ったスーパーミステリーマガジン『ムー』 5月号(No.462)にノストラダムス関連の記事が載っているのを見つけた。編集長の三上丈晴氏は先日のテレビ番組のコメントでもう『ムー』ではノストラダムスを扱えないようなコメントをしていたが、1999年以降もところどころノストラダムスを登場させている記事が見られる。『ムー』のウェブサイトの目次を見ても「中国人民解放軍の黙示録大預言」とあるだけでノストラダムスの予言が扱われているのか判然としない。しかし、記事の見出しを見ると、副題に「ノストラダムスが予言していた「東洋人の大軍隊」」とある。

記事の署名は吉田親司氏で緊急警告レポートと銘打っている。そして見開き頁の左上にはさりげなくノストラダムスの肖像が挿し込まれている。記事の内容は実際に『ムー』を手に取って読んでいただくしかないが、まず冒頭で「ヨハネ黙示録」の有名なフレーズ「刻印なき者は誰ひとり物の売買ができぬようにした」というのを中国における電子マネー取引の興隆と結びつける。最近のトピックもそつなく取り込んでいる。そしてノストラダムス予言集 詩百篇2-48、2-29、5-54を引用して中国人民解放軍という大軍隊が世界の覇権を狙ってヨーロッパ進軍を開始すると解釈している。

四行詩の訳文については岩波の『ノストラダムス 予言集』を参照して独自に作成したものか。2-48の四行目の「縄」「荷紐」をラブレーの『第一之書 ガルガンチュワ物語』と結びつけているのは明らかに『ノストラダムス 予言集』165頁を見ているはずだが意味深な単語というだけで安易にpole極点に結びつけている。2-29と5-54の類似性は従来より指摘されており『ノストラダムス 予言集』から戦争のシナリオを描き出そうとする解釈本の類では定番と言っていいほど有名な予言である。もちろんこの東洋からの王を反キリストなり中国と見なす解釈もありふれた言説である。

例えば、レニ・ノーバーゲンの『ノストラダムスの予言した第三次世界大戦』(1980)では2-29を「中国軍、フランスに攻め入る」、5-54を「中国、ソビエト南部に侵攻」と見出しを付けている。ソビエトはすでに消滅してしまったが現代のロシアに該当する。記事では「ヨハネ黙示録」の「その騎兵隊の数は二億であった」を引用し、中国人民解放軍のなかに大量のロボット兵士も含まれるのではないかとしている。絶対にないと否定はできないが実際のところかなりSF的な見方であるといえるだろう。さらに有名な獣の数字「666」を中国語のスラング「最高」を意味するというがいまいち関連性に乏しい。

これらの予言解釈はあくまで中国の近未来を想定したものであるが、それを数十年後、早ければ十年後に戦闘AI搭載の完全自立ロボット兵士が戦場を支配する可能性を匂わせている。もちろんノストラダムスの予言からはそんな未来を引き出すことはできないが、近い将来人間の仕事を奪ってしまうかもしれないといわれるAI(人工知能)が戦争までも肩代わりする時代がくるのだろうか。よく言えば、かなり想像力豊かな、悪く言えば荒唐無稽なお騒がせ解釈であるが現在の中国のニュースキーワードを巧みに取り入れた『ムー』らしい記事といえるかもしれない。

NHK アナザーストーリーのノストラダムス2019/04/16 23:10

https://www4.nhk.or.jp/anotherstories/x/2019-04-09/10/5230/1453118/
4月9日(火) 午後9時00分にNHK BSプレミアムでノストラダムスに関する番組が放映された。タイトルは「アナザーストーリーズ「ノストラダムスの大予言~人類滅亡の狂騒曲~」」で昨日再放送があったが残念ながらBSの契約はしていないので見られなかった。NHKでは以前このブログでも取り上げた「幻解!超常ファイル「大予言者ノストラダムスの真実」」でノストラダムスが紹介されたことがあったがなぜ今更ノストラダムスを取り上げたのだろうか。平成の振り返りというわけでもなさそうだ。

番組案内を見るとなかなか面白そうな構成である。やはり見てみたいという強い誘惑にかられて初めてNHKオンデマンドに登録した。全体的になかなかいい内容であったと思う。冒頭の1999年の詩の紹介の際、年代をはっきりと記載した詩が3篇というのは誤り。実際には7篇である。(6-2、8-71、6-54、10-91、1-49、3-77、10-72)まず1973年に出版された『ノストラダムスの大予言』の出版社側の関係者の取材は今だから話せる秘話が興味深い。それによると元々予定していたNON BOOKSの別の新書の穴埋めに五島勉氏のもち込んだ企画で出版の運びになったという。

当初は1973年9月刊行の予定だったのが11月に変更して日の目を見た。初版はよくわからないから25000部だったという。今回初めて知ったのだが当初新聞広告に描かれたノストラダムスはデザイナーがイメージで描いたものでノストラダムス本人とは似ても似つかぬもので笑ってしまう。『ノストラダムスの大予言』シリーズは累計600万部売れたというから祥伝社の関係者の話を聞くとビジネスとしては大成功で笑いが止まらないといった印象を受けた。実際初刊が出版されたときは社員に臨時ボーナスを振舞ったと聞く。番組は第一次ブームの社会背景を丹念に追ったものとなっている。

次のテーマは本場フランスで1999年に宇宙ステーションのミールが落下すると予言したファッション・デザイナーのパコ・ラバンヌ。滅亡の町と名指しされたフランス田舎町オーシュの人々とのやり取りは興味深いドキュメンタリーに仕上がっている。日本でも一部のノストラダムス本で紹介されたことはあったが当該本も読んでいないし細かい話は知らなかった。オーシュにノストラダムスの塔があるのも初めて知った。残念ながらどのようなゆかりがあるのかは番組では紹介されていない。町の人びとが予言に対して「世界の終わり」祭りというユーモア精神で返したのは痛快であった。

第三の視点としてノストラダムス学者のミシェル・ショマラへの取材が貴重である。現在はかなり足が不自由そうであった。45年にわたるノストラダムス研究、これまで収集したノストラダムスの関連本2000冊は今ではリヨン市立図書館に保管されており、その一部は電子化されインターネット上で閲覧可能である。そしてノストラダムスの予言が古来、人の心をどうとらえてきたのかという問題に関心を寄せたという。番組のナレーションで予言集の初版本を1568年版というのは正確ではない。これが世界に2冊しかないというのはどこから出てきた話なのだろう。1555年版と混同しているのか。

番組で紹介された1568年版はGallica(フランス国立図書館)で閲覧可能である。余談だが番組で紹介された1999年の詩は4行目の末尾が bon-heurとなっており1568年版ではない。レイアウトから判断すると1610年頃に印刷されたピエール・リゴー版(Parバージョン)である。番組のなかではショマラにアルマナの予言や1999年の詩の解釈を語らせている。偉大なヒューマニストが前半の「恐怖」と後半の「幸福」の対比により詩のバランスをとることでそこに大きな希望があると見る。またショマラ自身が1989年にオウムの麻原が訪問したときのことを語るのはなかなかないことである。

地下鉄サリン事件当時はマスコミが殺到してかなり迷惑を被ったのだとわかる。またいつ第二第三の麻原が自分を利用しようと訪ねてくるのではと不安だったという。これを聞いて日本人として申し訳ない気持ちでいっぱいになる。ノストラダムスは人びとに恐怖を与えようとしたのではなく安心してもらおうと予言を書いた。人びとは未来に起こることを事前に知ることで安心したいのだ。気を付ければ大丈夫と喚起することがノストラダムスのやり方だった。長年の研究の末にたどり着いた結論には説得力がある。1999年はとうに過ぎてしまい今後は人類滅亡の予言と煽られることはないだろう。