詩百篇1-60、ナポレオンの予言詩2018/09/14 01:29

ノストラダムス予言集の詩百篇第1巻60番の四行詩は皇帝ナポレオンの誕生を詠ったものとして有名である。そしてこの詩は懐疑者からノストラダムスの予言の曖昧さを示す格好の実例を示すものとして扱われたことでも知られている。この詩のナポレオン解釈はいつごろ登場したのであろうか。ノストラダムスの大事典には1814年に出版された二冊の解釈本が紹介されているが、実際には雑誌"L'Ambigu: ou variétés littéraires et politiques"(曖昧あるいは文学的かつ政治的な寄せ集め)1805年7月20日号(No.83)にすでに登場している。

ナポレオンが皇帝の地位についたのが1804年5月であるからそれを踏まえて予言の好事家たちが1-60に目をつけるというのは特段不思議なことではない。最近ではインターネット上で様々な文献を簡単に検索することができるのでそれほど労を払わずして今までアクセスすることができなかった情報にたどり着くことができる。本当にありがたい時代になったものだ。L'Ambiguという雑誌は10日ごとに出版されていたようでそれをまとめたものが一つの巻になっている。ナポレオン解釈が載っているのは”L'Ambigu: ou variétés littéraires et politiques”, 第 10 巻、Google Booksで閲覧できる。

その133頁-137頁に「ノストラダムスの予言」という記事が載っている。冒頭には"Napoléon , premier empereur des Français prédit par Nostradamus , ou Nouvelle concordance des prophéties de Nostradamus avec l'histoire, depuis Henri II jusqu'à Napoléon -le-Grand... par F. d. S. M. J. P. B. Bellaud,... - 1806"の本からの引用が見られる。この本も今はGallicaで閲覧可能である。この本は旧来の言説に沿ってノストラダムスの伝記や予言について割と丁寧に書かれている。予言解釈は過去に当てはまる予言からナポレオンに関する予言まで時系列に沿っている。

この本が引き金となって予言解釈の絶好の対象ともいえるナポレオン予言詩群が出始めたのではないか。そして雑誌記事では、(1)フランス皇帝ナポレオン大王の到来 (2)イタリアでの誕生 (3)イギリス政府の没落 (4)イギリスに関するフランスの将来の支配、という4つのキーワードから予言詩の解釈を行っている。順に4-54、3-57、10-22、10-26、1-60、1-61、1-4、1-13、4-45、4-65、1-66の四行詩を引用しているが原文を部分的にしか示していないものもあり恣意的な感じも受ける。ここではあえて訳文はあげないが興味のある方はノストラダムスの大事典を参照されたい。

1-60の解釈については”Ne dirait-on pas que Nostradamus voyait Napoleon naître en Corse, et devoir couter bien cher a l'empire francais"(ナポレオンがコルシカで誕生しフランス帝国に高い代償を払わせるに違いないというノストラダムスの見通しは誰も言えないだろう)そして4行目に書かれた「君主というより肉屋といわれる」といった表現に疑問符?をつけている。当時ナポレオンは武運に恵まれ絶頂期であったのだから無理もないが、1814年になると戦争によってフランスの情勢が悪化し1-60が改めてクローズアップされるようになったのだろう。