六行詩集のテクスト比較 ― 2017/03/20 22:14
17世紀の初頭に出現したと想定される六行詩集のテクストについては不明な点が多い。それでも現存のテクストを比較することで見えてくるものがある。比較対象としたのはフランス国立図書館の手稿FR4744、モルガール版、シュヴィヨ版、デュ・リュオー版、1605年版の5つである。テクスト比較から確実にいえることは、デュ・リュオー版がシュヴィヨ版をほぼ忠実に転写している、1605年版はデュ・リュオー版を参照しているが誤植あるいは独自の改変が見られることである。つまり六行詩集のテクスト分析からも1605年版予言集がシュヴィヨ版に先駆けて出版されたことはあり得ない。
手稿FR4744は、1975年のダニエル・リュゾの著書で紹介されたことから六行詩集の草稿らしきものがあることが知られるようになった。現在ではGallicaでその手稿を閲覧することができる。改めてスペイン語版の原書を確認したところ、リュゾのフランス語版で六行詩手稿の前の頁に載っていた1609年10月6日付書簡が六行詩集と関係のないことに気付いた。スペイン語版では別々に掲載されており、リュゾのコメントによると、カルパントラ図書館に保管されている、1564年にプロヴァンス巡幸でサロンを訪れたときにノストラダムスがアンリ四世の王位を予言したと伝えるペイレスクの手稿である。
モルガールの予言については”Documents Inexploités sur le phénomène Nostradamus”(ノストラダムス現象に利用されなかった文書) 228-242頁を参照した。sumaruさんは「*大事典の六行詩集の記事にはモルガールの比較も取り入れてありますが、正直言ってあまり重要な版には思えないです。」とし、シュヴィヨ版との関係について「改めてそういう繋がりを垣間見られるような異文が無いかと検討しなおしましたが、そういうものは見られないように思います。」とコメントされている。実際にテクスト比較をするとこのモルガール版と手稿はテクストが非常によく一致しているが校訂箇所も見られる。
一例として六行詩13番の1行目を取り上げる。手稿:L'auenturier six cens cinq ou neuf モルガール版:L'auenturier six cens cinq ou neuf シュヴィヨ版:L'auanturier six cens & six ou neuf, デュ・リュオー版:L'auanturier six cens & six ou neuf, 1605年版:L'auanturier six cens & six ou neuf, 手稿とモルガール版で605とあるのがシュヴィヨ版以降に印刷されたテクストで606に書き換えられている。また手稿とモルガール版に特長的なのは600と5の間に&が省略されている場合が多い。他の異文から判断するとシュヴィヨ版がモルガール版を参照したというよりは直接手稿を見ている可能性が高い。
手稿FR4744は印刷されたテクストと比較すると、58篇のうち4篇(11,12,14,27)が欠落しており、ナンバリングもところどころ飛んでおり最終番号は56番である。モルガール版はシュヴィヨ版と同じ58篇である。これが意味するところは何か。単純に手稿→モルガール版→シュヴィヨ版というわけにはいかない。ここからオリジナルの六行詩の存在が想定される。1878年に出版された"La Flandre revue des monuments d'histoire et d'antiquites"19-48頁の「ノストラダムスの予言集に関する未刊行の文書 ヴァンサン・セヴ―ボーケールとその見本市」のなかに興味深い記述が見られる。
ヴァンサン・セヴがノストラダムス文書を受け取ったとしている六行詩集の本当の著者は誰なのか。実は六行詩集のオリジナルなるものが132篇あり、そのうちの58篇が予言集のテクストとして印刷されたという。オリジナルはアミアンの司教座聖堂参事会員であったバルボトーBarboteauが認めて保管していたらしい。オリジナルの手稿のことが明るみになったのは1694年でバルボトーの書簡によるという。エドガー・レオニによると、ジョベールが1656年の著書のなかで六行詩のオリジナルの手稿132篇をアミアンの司教 M. Barbotteal(バルボットー)のライブラリーで見たことがあると主張していた。
この話の信憑性については検証するすべはない。バルボトーはパリ生まれでフランソワという名であった。1602年6月3日にアミアンの大聖堂の司教座聖堂参事会員になり、1636年に聖歌隊員、1642年に憲兵隊将校になり、1660年11月23日に死去した。オリジナルの六行詩を書いたとすれば1600年頃のことか。手稿とモルガール版には1600年の記載が見られる。またジョベールがバルボットーのライブラリで132篇の六行詩を見たという主張も生前にあたるため一応は整合が取れているようにも思える。そうすると手稿FR4744とモルガール版はこのオリジナルを見ていた可能性もあろう。
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