ノストラダムスに見る「偉大なる君主」のテーマ2008/12/13 23:51

エリック・ミュレーズが1975年に著した"Histoire et legende du grand monarque"(偉大なる君主の歴史と伝説)という本がある。手元の版は1978年第3刷。ミュレーズは『サンレミ・ド・プロヴァンスとノストラダムスの秘密』(1969年)で、古代ローマの舞台であったプロヴァンスの地からの予言の源泉を明かしている。予言集から未来を読み取ろうとする注釈者にとっては、偉大なる君主の到来というが未来のシナリオのひとつのクライマックスになっている。偉大なる君主の伝説は五世紀に遡る。このテーマはヨーロッパでは脈々と続いており、ミュレーズはいろいろな観点―天文学、歴史、予測、戦略、精神分析―からフランス王の可能性のある系図についても実証的に挑んでいる。

本書の4章「ノストラダムスを魅了する」で、予言集に見る偉大なる君主の先達と百詩篇の関わりについて記す。アルルの聖セザールの予言には偉大なる君主の原型として、ブロワの王、再び開花する百合、教皇の都、教会と君主の統一などの文句が見られる。この予言句は1524年ジャン・ド・ヴァティゲローにより発見され、リベル・ミラビリスのようなテクストを経てノストラダムスのモチーフに取り込まれたと見てよい。19世紀の注釈者トルネ・シャヴィニーはシャンボール伯こそアンリ五世と見たが実現しなかった。20世紀に入ってもド・フォンブリュヌ博士が1980年頃までにアンリ五世が現れると解釈したり、息子のシャルルもそれを引き継いだが未だに偉大なる君主は現れていない。

ミュレーズは百詩篇4-24、4-86、5-87、4-5を関連する四行詩と見る。4-86の「水のなか土星は太陽と合にある年」を偉大なる君主到来の日付が隠されている。イオネスクは『ノストラダムスメッセージⅡ』163頁で、1999年の詩とリンクして、この君主の戴冠を2033年と解釈している。ミュレーズも年代の特定を試みている。四行詩に書かれた詩篇を分析し1980-1990年を時の終わりの前の偉大なる君主の登場としている。モチーフは同一でも予言の実現を自分の近未来に置きたいという欲求は普遍的なようである。

コメント

_ 研究者 ― 2008/12/14 10:41

こんにちは、新戦法さん。今回の「偉大なる君主」のテーマ、伝説は十字軍遠征時にささやかれていた聖地奪回を目指した幻の「プレスター・ジョン伝説」とはつながりがあるのでしょうか?なんとなく思い出したのですが。あまり関係ないでしょうか?度々すいません。

_ 新戦法 ― 2008/12/14 23:28

研究者さん、毎度コメントありがとうございます。

プレスター・ジョンというのは聞きなれない言葉だったので、ウィキペディアで調べてみると祭司ヨーハンネースの伝説のことと知りました。この伝説については、前に紹介した『幻想の東洋』という本に詳しく出ています。

この件はそんなに深く考えたことはないのですが、残念ながら「偉大なる君主」との関係は見出せません。ミュレーズの本もざっと読みましたが載ってなかったようです。逆になにか情報があれば教えてほしいところですが・・・

プロヴァンスの底流にある予言は「歴史の終末に近づく頃、フランス諸王の後継者が、古代ローマ帝国を支配するだろう」というものです。

それが発展して「至高のキリスト教君主たるフランス国王は、シャルルマーニュ大帝の真の後裔として世界を統一し、聖地エルサレムに首都を置いて全世界を統治しなければならない」という。フランス=世界帝国主義は中世からルネサンスにかけての終末神話のなかでもっとも大きな役割を果たした象徴とのことです。(『幻想の東洋 上』318頁)

_ 研究者 ― 2008/12/15 07:05

早速の回答ありがとうございます。

ほとんど関係なかったようですね。聖地エルサレムとキリスト教くらいしか共通点がなかったみたいですね。

以前、紹介してもらったジョルジュ・ミノワの『未来の歴史』とても参考になりました。古代メソポタミアから現代のSFまで幅広く網羅してあってかなりの大著でした。その中でも個人的に好きな20世紀前半の歴史家シュペングラーも批評されてありとても嬉しく思いました。少しずつ物事が客観的に見えてくるような気になった一冊でした。

_ 新戦法 ― 2008/12/15 22:48

研究者さん

> 以前、紹介してもらったジョルジュ・ミノワの『未来の歴史』とても参考になりました。

少しでもお役に立てて良かったです。ところで、シュペングラーといえば『西洋の没落』ですよね。荒俣氏はノストラダムス予言集を「ヨアキムやシュペングラーの歴史観に似て、世界史を一つの大きなサイクルとしてとらえている」と解説したことがあります。研究者さんはどういうところがお好きなのでしょう?

_ 研究者 ― 2008/12/16 06:38

世界の国々の歴史を「西欧文明」や「中華文明」、「日本文明」等に分けて捉えて文明史の成熟を見ている点です。それによると「西欧文明」はもう衰退期にさしかかっていると第一次世界大戦のときから指摘していた点です。ちょっと悲観主義的な歴史観ですけど。

「西欧文明」が衰退したらいずれアジアに世界の中心が移るといったのはその文明史観を継承したトインビーですけど、もしそんな事が起こったら世界はどうなるんでしょうか?あまり良い事ではない気がするのですが。
アメリカの一極主義が終わって、世界経済は多極化に向かってまさに予測通りになってきています。

中国に新文明が勃興して、新しい芸術文化や宗教が発展すると西欧的物質文明を否定したりしているのですがそんなにスムーズに移行するのでしょうか?今の中国がこれから、昔のヨーロッパのルネサンス時代を迎えるとは考えられないです。

それよりもむしろ日本にもうちょっと頑張ってもらいたいです。最近あまりにも元気がないので。

_ 新戦法 ― 2008/12/17 00:52

研究者さん、コメントありがとうございます。

今後世界の国々の文明というものがどのように変遷していくのか。なかなか面白いテーマですね。昨今の世界経済の凋落ぶりを見ると、多極化してくるがゆえに一人風邪を引くとすぐに皆にうつってしまう危うさを感じます。日本も雇用がどんどん厳しくなっていますが、もう少し頑張ってほしいものです。

_ 研究者 ― 2008/12/17 20:18

本当にそうですよね。

日本社会の良い面であった1億総中流社会が終わり、格差社会が現実的な問題になってきて新しい政治経済の枠組みを世界レベルで考えていかなければならないです。

アメリカも大企業を優遇して労働者から幅広く増税する新自由主義政策、市場原理主義もオバマ政権の誕生によって変化しようとしています。日本社会はどういうスタンスで対応していくのでしょうか?

日本も80年代の頃のように強い日本、誰もが誇りを持って生きていける社会ができれば良いと思います。

ただ今の若者は団塊の世代と違って団結力が足りないですよね。個人主義が強くなってしまった弊害というか、そんな空気がただよっているような気がします。

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