第23期竜王戦第二局は渡辺が制して二連勝2010/10/31 23:12

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少し日がたってしまったが第23期竜王戦第二局は渡辺が相矢倉の後手番を制して連勝。タイトル戦が始まるまでの羽生は今期タイトル戦では1番も落としておらず、勝率も近年になく高勝率8割以上をキープ、これ以上ない程の好調を維持してタイトル挑戦に臨んだかに思えた。渡辺も徐々に調子を上げてきたとはいえ羽生に比べると成績は見劣りする。ところがふたを開けてみると、意外な結果になっている。羽生も序盤工夫を凝らして本局も既成の定跡に新たな新手を登場させたが、どうも中終盤の指し回しがらしくない。羽生らしい柔軟性のある指し手は影を潜めて、直線的な剛直が手が目立つ気がする。そこを渡辺に見切られてしまっている。85手目の▲8五同馬や99手目の▲1三銀は羽生というより谷川の手のような感じである。

封じ手の▲1三桂成はちょっと意外な感じがする。羽生の感想にある「もう少し攻めがあれば・・・」というのは▲1五香の新手の後も先手がはっきり良くなる順が見つけられなかったということだろう。後手は当面受けにまわるしかないはずだったが、渡辺は突如74手目△9六歩と持ち歩を使い切って端攻めに出る。これで羽生は形勢が悪いと見たようだ。そうでなければ勝負手のような▲8五同馬はないだろう。羽生の局後の感想では「馬を切ってから苦しい」とあるがそれでも難解な形勢である。東大将棋で解析してみると何故か111手目▲1三金から先手優勢とある。実際▲7五角と打ったところでは攻防手で先手が盛り返したようにも見える。次に王手飛車があるので一旦は受けそうなものだが渡辺は勝機と見て寄せ合い勝ちを目指す。

渡辺の判断は的確で最後の最後136手目△5三角と打って勝ちを意識したという。東大将棋の棋譜解析もここから一転して後手勝勢となった。渡辺は竜王戦で羽生に4連勝、森内に4連勝、羽生に2連勝で10連勝を達成したが防衛まではまだまだ道のりは遠い。ここからは羽生も本気で全精力を注いでくるだろう。次は羽生の後手番、作戦は一手損角換りと予想しておこう。

第23期竜王戦第二局はがっぷり四つの相矢倉に2010/10/26 23:13

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第1局から少し間を置いて竜王戦第2局が始まった。羽生の先手、渡辺の後手でどういったオープニングになるか注目されたが、2手目に渡辺が王道を行く△8四歩。これは先手に作戦の選択権を与えた手で矢倉か角換わりのいずれでもどうぞと言っている。本譜は▲6八銀で相矢倉になったが、仮に▲2六歩だったら角換り腰掛銀の同型になったか、興味のあるところだ。もっともまだ第2局、定跡手順の一直線の研究勝負となるよりはじっくり指そうとの表れか。相矢倉と決まれば現代矢倉の指定局面まですらすら進む。羽生が矢倉を選択したからには何かテーマとなる局面があるはずで既成の手順を離れて新手がいつ出るか固唾を呑んで見守っていた。渡辺もこの形は経験豊富で得意としており、或る程度研究範囲で自信満々で受けているのだろう。

指し手を進めていくと、やはりというべきか、羽生がこれまでプロでも盲点となっていた新しい手順の組み合わせをお披露目した。それが59手目▲1五香から▲6五銀。解説を読む限りでは、これまで勝率の高かった後手54手目△3七銀に対して非常に有力な作戦らしい。渡辺がこの手を織り込み済だったかはわからないが、当然のごとく長考に入る。控え室ではこの新手に対抗できる手順を発見しきれていないという。渡辺は87分の長考で△1五香、▲6五銀、△2六銀成と進めて封じ手の局面となる。まあ、銀を打ったからには普通に▲6四銀△同歩が第一感であるが後手も△2五成銀の変化もあり、どれが最善手か迷ってしまう。羽生は80分の長考の末封じた。明日は羽生の示した手に対して渡辺が長考する番だろう。

ここらが一番の勝負どころだ。このまま難しい終盤戦に突入すれば最高棋戦にふさわしい力と力のねじり合いが見られそう。将棋の内容もここまで最先端の戦いといっていい。渡辺が後手番をキープして2連勝とするか、羽生がタイに戻すか。明日の展開が楽しみである。

第23期竜王戦第1局は渡辺が先勝した2010/10/16 23:02

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すでに昨日になるが第23期竜王戦第1局が終了、渡辺が勝って防衛に向けて幸先のいい1勝目を挙げた。さらに竜王戦では9連勝(そのうち羽生から5勝)という新記録も打ち立てたという。この日は福岡への日帰り出張というハードスケジュールだったので、途中経過は携帯で少し中継ブログを見る程度であった。東京行きの飛行機に乗る直前、終盤難しそうに見える局面から突然羽生が投了したという記事が入って、いったい何が起きたのか訝しく思っていた。夜中の12時過ぎに帰宅してから棋譜中継を見ると、90手目△5五香からあっという間に終局となっていた。局面は先手が優勢であったようだが、素人目には双方の玉が接近しているだけに詰みがありやなしやのハラハラドキドキする展開である。2年前の竜王戦第7局を髣髴させるような秒読みがなるかと思われたが、あっさりと終わった。羽生に誤算があったのは間違いないが、渡辺が終盤読み勝ったともいえる。

封じ手の局面では若干先手が良いと思っていた。封じ手の△3四同飛は当然として、▲5六角から香車を取りながら馬ができては先手優勢に見える。やはり羽生は用意していた。それがじっと△2三歩(上図)、ちょっと思い浮かばない。これで難しい形勢というから2年前の竜王戦第1局での羽生のすぐれた大局観が頭によぎった。この手が新手△4五角とセットで研究してきた手であるのは間違いない。対して渡辺は▲5六香から強気に攻めていくが56手目△2三金と受けられて少々攻めが細い感じ。しかし61手目▲2一金の妙手を織り交ぜながらいやらしく迫っていく。71手目▲1一飛成と竜ができて先手がよくなった感じだが72手目△5六歩から後手も急所を攻める。結果的には先手が竜で2枚の金銀を取って受けにまわったのが決め手のようだ。感想によれば竜の王手に82手目△4四玉でなく△2五玉と逃げれば難しかったらしい。

今期絶好調モードであった羽生に競り勝っての1勝は渡辺にとって新たな自信につながったことだろう。しかし7番勝負はまだまだ先が長い。このまますんなり渡辺が防衛するとも思えない。問題は渡辺の後手番のときの作戦である。ひょっとすると朝日オープンでの角換り腰掛銀の同型がもう一度見られるかもしれない。後手番での秘策を用意しているとすればさらに盛り上がることだろう。

第23期竜王戦がいよいよ開幕した、羽生の永世七冠なるか2010/10/15 00:12

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6連覇中の渡辺竜王に挑戦するのは当代最強棋士の羽生名人。竜王を奪取すれば前人未到の永世七冠という快挙達成である。2年前の対戦は最後の最後までドラマチックな展開で将棋ファンを魅了した。最近『永世竜王への軌跡』を読み直してみたが、今更ながら渡辺の奇跡的な勝利に感動してしまう。今期の渡辺は決して好調とはいえない。タイトル戦挑戦や棋戦優勝にまったく手が届いていない。対して羽生は、名人戦、棋聖戦、王座戦とすべてストレート防衛という途轍もない戦績を残して竜王戦の挑戦者に名乗りを挙げた。普通に見れば羽生が圧倒的に有利に思えるが、渡辺のこれまでの竜王戦の戦いぶりから無敵の羽生と互角以上に戦えるのではないかという期待を抱かせる。とにかく目が離せない黄金カードである。

第一局は後手番の羽生が横歩取りに誘導した。二人の対戦らしく最新流行形での研究と読みのぶつかり合いである。渡辺はともかく羽生はそういった情報をどこから仕入れているのだろう。今月号の将棋世界を読むと、竜王戦展望の座談会で佐藤九段が最新研究に追いついていない発言が目を引いたが、タイトル戦で忙しい身の羽生にも同じことがいえるのではないか。本譜の1筋から攻め込む変化は先手良しというのが若手の見解らしい。それをあえて羽生が採用したところに凄みがあるし、渡辺も少し困惑しているかもしれない。単純に封じ手の局面だけ見れば先手がうまくいっているような感じも受けるが、当然羽生は想定した展開のはず。38手目△4五角の新手の後に用意してきた作戦があるに違いない。仮にそれがなければ明日は早く終わってしまうだろう。

コンピュータ棋士「あから2010」が女流プロに勝利した2010/10/11 22:14

随分と久しぶりの更新となる。本日は人間vsコンピュータの対局が行われたようで見事にコンピュータ側が勝利を収めている。人間側は女流プロトップの清水女流王将、コンピュータ側は「あから2010」という強豪コンピュータソフトの連合軍。複数のコンピュータによる合議制の多数決で指し手を決定することで、悪手を指す確率を低減させ、棋力がアップしたのだという。なかなかユニークなアイデアであるが、このシステムの考案者が大学時代の後輩であるというのは本当にビックリである。棋譜中継は有料サイトなので見てはいないが、そもそもアマのトップクラスが簡単にコンピュータに勝てない時代に突入したことを考えればさほど驚く結果とはいえない。女流プロの対男性棋士勝率とアマの対男性棋士勝率を比べるとそのレベルの差は歴然である。それでも1番勝負であればどちらに軍配が上がるかはやってみないとわからない。

今回の結果のみでコンピュータが女流プロを越えたと結論づけるのは少々性急すぎる感じもするが、アマトップの成績と一緒に鑑みればコンピュータの棋力はすでにプロに匹敵するレベルに到達したといえるだろう。その意味では順当ともいえる。ではその棋力はプロの何段位に相当するのか、今後はその辺に興味が移っていく。日本将棋連盟側も女流プロが敗れたことで次はプロ棋士を登場させざるを得ない。まあイベント性を考えれば、以前週刊将棋のアマプロ戦でやったように4段か、5段・・・と当てて行くのが面白いかもしれない。いきなりタイトルホルダーというカードは切らないだろう。プロ棋士の面子にかけて順位戦の各クラスの最強と思しき棋士を登場させるというのが興行的にも銭を稼げるかもしれない。独断と偏見で勝手に登場棋士を想像してみる。

まずC2四段は稲葉、C1五段は村山、B2六段は戸辺、B1七段は山崎、A級八段は木村、タイトルホルダーは名人羽生または竜王渡辺といった感じか。ただし現時点では若手プロ四段の壁を突破するのは難しいのではないか。コンピュータは将来別なアイデアが出ればこれからもさらに強くなることが予想される。チェスではないが、今後もスポンサーがつけば人間vsコンピュータの面白い勝負が続いていくことだろう。