ノストラダムス『予言集』の成立過程と史的展開 ― 2026/09/15 16:22
久しぶりの更新となるがこれは書き残しておかねばなるまい。sumaruさんの博士論文「ノストラダムス『予言集』の成立過程と史的展開」が国立国会図書館のデジタルコレクションで読めるとあって、さっそく国会図書館に行って全ページをコピーしてきた。国会図書館へ行くのはほぼ2年ぶりなので中がどんな状況かと思いきや、椅子席の端末が減って、代りに立ち席の端末が増えているような印象。論文の全枚数が403頁ということで端末でファイルを呼び出し1回の上限の100枚ずつ印刷請求し、5回ですべてのページが入手できた。ちなみにデジタルデータの印刷は@16円なので全部で税込み7092円。
レジメは事前に確認していたがsumaruさんがこれまでに発表したレポートや論文がきちんと整理された重厚な仕上がりとなっている。7年間の研究成果がぎっしりと詰まっている記念碑的な作品だ。筆者は大のノストラダムスファンとして常々良質なノストラダムス論を読みたいと、これまで随分と海外文献を渉猟してきた。ずっとノストラダムスをウォッチャーしてきたのだが、五島勉著『ノストラダムスの大予言』から半世紀以上過ぎ、さらにブームの起きた1999年からも四半世紀以上過ぎている。そんな状況で日本人がノストラダムス研究をまとめた博士論文を、自分の目の黒いうちに読むことができるというのは本当にありがたい。論文61頁で本ブログの記事について脚注で触れているのは驚いた。さらに1枚1枚丁寧に読んでいくと最後のところの謝辞に自分の名前が出てきたのには思わず「えーえーえっー」(Uber EatsのCM風)と声が出てしまったほどだ。博士論文に関して特段資料協力したことはなかったが随分と持ち上げていただいたと感謝している。
枚数が403頁もありバラバラのままでは扱いにくいので、OCR付のスキャンし電子データ化した後で近所の製本所に持ち込み製本してもらった。(画像参照)ちなみに費用は5000円。上のウェブサイトの画像に比べると2倍の厚さに見える。オリジナルはおそらく両面コピーしたものを製本したのだろう。とにかくノストラダムス研究の博士論文で学位を取ったというのが本当に素晴らしい。いまはデジタル時代で世の中には多くの情報があふれている。そんななかでノストラダムスの予言集のデジタルデータを参照できるようにURLを記載しているのは今風の論文といえる。自分も知らなかった1561年版や1594/95年版のテキストは新研究の成果といえるだろう。研究論文というのは新たな仮説を提示してそれを検証するというのが必須である。その通りに新しい仮説をいろいろと提示しているのもうれしい。ただ、その中身は必ずしも賛同できないものもある。
さらに情報がアップデートされていないものも見受けられる。1605年版の偽年代の問題はなにかしらの結論を出しているのかと期待したが残念。これについては別途述べてみたい。1557年版のモスクワの所蔵本についてベナズラの「おそらく、ソ連の兵士によって(ミュンヘン図書館から)持ち出され、その後モスクワに渡った」を引用しているが、ルミャンツェフ図書館の印は、このユニークな本が革命前からロシアにあったことを示している。(アレクセイ・ペンゼンスキー『ノストラダムスの神話』43p)実際にRGBのWebサイトをみても「RGBのEKコレクション 1831年以前に作成された文書の目録」とこれを裏付けている。ザヴァリシンはモスクワとミュンヘンの標本をきちんと分けて論じている。(V.K.ザヴァリシン『ノストラダムス・ サンチュリ』66p)ボリス・パステルナークはゲーテの『ファウスト』を翻訳する過程で、レーニン図書館を訪れ、1557年版の『サンチュリ』という希少本を利用したという。(同書68p)ミュンヘン標本(クリンコウストロエムの論文にあるもの、画像参照)は左側にRのマークがついておりまったく別のものである。

末尾に置かれた予言集の書誌のまとめは従来の書誌研究を総括するもので、ノストラダムスの史的展開を概観する上でも有用なデータベースである。本論文は今後ノストラダムスを議論するうえでの基本的文献として位置づけられることだろう。本当におめでとうございます。

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