353篇の謎2026/09/21 22:42

sumaruさんの博士論文「ノストラダムス『予言集』の成立過程と史的展開」の109頁には「初版に収録された詩篇が353篇という中途半端な数であることについて、有力な仮説はない。」とある。ノストラダムスの予言集の1555年初版には100篇ずつ3巻の詩百篇と4巻は53篇が収録されている。そしてご丁寧にFIN(了)と書き添えてある。レイアウトからしてもう一、二篇追加することもできたはずである。詩篇の数を計353篇にしたのは著者の意図的なものがあったのは間違いない。これについては定説があるわけではないが、ロシアのペンゼンスキーは通常のユダヤ暦の1年に相当する象徴的な数字としている。ユダヤ暦の太陰暦の1年の長さは353日から360日まであり、ノストラダムスはその最小値を採用したと説明している。(『ノストラダムスの神話』141頁)そしてユダヤ暦の世界の創造紀元を前3761年を基準とした353年として惑星周期を展開したとみる。この場合月の時代は1534年から、太陽の時代は1887年、土星の時代は2240年からとなる。このようにノストラダムスがリシャール・ルーサの説明するトリテミウス周期354年4カ月をアレンジしたものと捉えている。

予言集初版は序文からもわかるように生まれたばかりの息子のセザールに宛てて書かれたものである。となればセザールに関係する数字を設定したと見るのが自然ではないか。ここではペンゼンスキーのいうユダヤ暦をもう一歩進めて考えてみたい。ユダヤ暦は太陰太陽暦である。月の満ち欠けの周期で12ヶ月を決めると,太陽暦の1年より少なくなるので,19年で7回の閏月が追加される。閏年は19年周期の3,6,8,11,14,17,19年目。セザールが生まれたのは1553年12月18日。このときのユダヤ暦の年はAM(アンノ・ムンディ)5314、ユリウス暦では1553年9月9日〜1554年8月29日に該当する。年の種類は平年・353日(欠損年)となる。ユダヤ暦の平年の種類は3つで353日(欠損年)、354日(通常年)、355日(完全年)がある。ちなみに予言集初版の1555年を含む年はAM 5315(384日の閏年)となる。ユダヤ暦の閏年の種類は383日:欠損年、384日:通常年、385日:完全年がある。こうしてみると、セザールが誕生した年のユダヤ暦の正確な日数353がノストラダムスが意図した詩篇の数と一致する。

ノストラダムスは実際にユダヤ暦を意識していたのだろうか。ノストラダムスがベニヤミン族の末裔を自称していたことはスカリジェールの書いた詩篇から窺える。「何故ノストラダムスは預言者を自称するのか。彼日く、ベニャミン族の末裔だからだと。」(博士論文23頁)ダニエール・イアンク=アグーの『ノストラダムスの出自』78-79頁にはこうある。

J.P.ド・エイツェ による、実にふさわしい聖書の引用を伴うイッサカル族の説と、J.-C.スカリザーが意地悪げに提唱したベニヤミン族の説との間では、我々は後者に傾く。というのも、セザール・ド・ノートルダムがそれを採用したからだ……70歳に近づく頃、彼はもはや自身の出自を隠さなくなっていた。1622年に出版に向けて準備されたが、結局原稿のままとなった彼の重要な韻文作品(17,000行からなる17巻)『ヒッピアード、あるいはゴドフロワと騎士たち』の冒頭部分で、詩人は9つの四行詩からなる擬人化を挿入している。その7番目は、次のように書かれている:
「今や、老いの重荷が肩や足、そして目にものしかかっている。愛する息子よ、私としては、ベニヤミンの子孫が愛されることを願っている」。

息子のセザールも、それが事実かどうかは別にして父親からベニヤミン族の末裔というのを聞かされていたのだろう。親子ともども世間へはユダヤという色をできるだけ消していたが内々では先祖のユダヤを意識していたといえる。ノストラダムス本人もその話を先祖から聞いていた可能性が高い。スカリジェールと親密だった時についその話をしてしまい、それを覚えていて非難の材料に用いたと見るのが自然である。四行詩353篇というのは内輪だけにわかるユダヤとの関りを示したものではなかったか。あくまでもひとつの仮説として提示してみたい。

ノストラダムス『予言集』の成立過程と史的展開2026/09/15 16:22

久しぶりの更新となるがこれは書き残しておかねばなるまい。sumaruさんの博士論文「ノストラダムス『予言集』の成立過程と史的展開」が国立国会図書館のデジタルコレクションで読めるとあって、さっそく国会図書館に行って全ページをコピーしてきた。国会図書館へ行くのはほぼ2年ぶりなので中がどんな状況かと思いきや、椅子席の端末が減って、代りに立ち席の端末が増えているような印象。論文の全枚数が403頁ということで端末でファイルを呼び出し1回の上限の100枚ずつ印刷請求し、5回ですべてのページが入手できた。ちなみにデジタルデータの印刷は@16円なので全部で税込み7092円。

レジメは事前に確認していたがsumaruさんがこれまでに発表したレポートや論文がきちんと整理された重厚な仕上がりとなっている。7年間の研究成果がぎっしりと詰まっている記念碑的な作品だ。筆者は大のノストラダムスファンとして常々良質なノストラダムス論を読みたいと、これまで随分と海外文献を渉猟してきた。ずっとノストラダムスをウォッチャーしてきたのだが、五島勉著『ノストラダムスの大予言』から半世紀以上過ぎ、さらにブームの起きた1999年からも四半世紀以上過ぎている。そんな状況で日本人がノストラダムス研究をまとめた博士論文を、自分の目の黒いうちに読むことができるというのは本当にありがたい。論文61頁で本ブログの記事について脚注で触れているのは驚いた。さらに1枚1枚丁寧に読んでいくと最後のところの謝辞に自分の名前が出てきたのには思わず「えーえーえっー」(Uber EatsのCM風)と声が出てしまったほどだ。博士論文に関して特段資料協力したことはなかったが随分と持ち上げていただいたと感謝している。

枚数が403頁もありバラバラのままでは扱いにくいので、OCR付のスキャンし電子データ化した後で近所の製本所に持ち込み製本してもらった。(画像参照)ちなみに費用は5000円。上のウェブサイトの画像に比べると2倍の厚さに見える。オリジナルはおそらく両面コピーしたものを製本したのだろう。とにかくノストラダムス研究の博士論文で学位を取ったというのが本当に素晴らしい。いまはデジタル時代で世の中には多くの情報があふれている。そんななかでノストラダムスの予言集のデジタルデータを参照できるようにURLを記載しているのは今風の論文といえる。自分も知らなかった1561年版や1594/95年版のテキストは新研究の成果といえるだろう。研究論文というのは新たな仮説を提示してそれを検証するというのが必須である。その通りに新しい仮説をいろいろと提示しているのもうれしい。ただ、その中身は必ずしも賛同できないものもある。

製本版

さらに情報がアップデートされていないものも見受けられる。1605年版の偽年代の問題はなにかしらの結論を出しているのかと期待したが残念。これについては別途述べてみたい。1557年版のモスクワの所蔵本についてベナズラの「おそらく、ソ連の兵士によって(ミュンヘン図書館から)持ち出され、その後モスクワに渡った」を引用しているが、ルミャンツェフ図書館の印は、このユニークな本が革命前からロシアにあったことを示している。(アレクセイ・ペンゼンスキー『ノストラダムスの神話』43p)実際にRGBのWebサイトをみても「RGBのEKコレクション 1831年以前に作成された文書の目録」とこれを裏付けている。ザヴァリシンはモスクワとミュンヘンの標本をきちんと分けて論じている。(V.K.ザヴァリシン『ノストラダムス・ サンチュリ』66p)ボリス・パステルナークはゲーテの『ファウスト』を翻訳する過程で、レーニン図書館を訪れ、1557年版の『サンチュリ』という希少本を利用したという。(同書68p)ミュンヘン標本(クリンコウストロエムの論文にあるもの、画像参照)は左側にRのマークがついておりまったく別のものである。

ミュンヘン標本

末尾に置かれた予言集の書誌のまとめは従来の書誌研究を総括するもので、ノストラダムスの史的展開を概観する上でも有用なデータベースである。本論文は今後ノストラダムスを議論するうえでの基本的文献として位置づけられることだろう。本当におめでとうございます。

イギリス王室の予言2023/01/21 22:29

『発禁版「シン・都市伝説」大全 知ってはいけない! あのニュースの黒幕&陰謀スペシャル』一見ワンコイン本かと思ったら定価880円だった。昨今の円安の影響か、いろいろなものの物価が上昇しており、ワンコイン本にも価格転嫁の波が押し寄せたのか。表紙を見ると「ノストラダムス「2023年の大予言」とは?」というクレジットが見られる。19世紀のフランスのアルマナックにノストラダムスの名前をつけて枕詞付けしたのと同じようなものか。時代は変われど人の考えることはそう変わりはないのである。本のタイトル通り都市伝説のお話が次々と登場する。物事をいろいろな角度から見るという点では面白く読めた。198頁には「エリザベス女王の死去を的中させ「ノストラダムスの大予言」が復権」とある。そのなかでマリオ・レディングが2005年に発売した本で、「イギリスのエリザベス女王が2022年頃母親の生涯より5年短い96歳あたりで死去するだろう」と解釈した箇所がある。確かに昨年エリザベス女王が亡くなりチャールズ国王が王位を継承したということではレディングの解説は当たったといえる。しかし、ここの部分だけ見てノストラダムスの予言(レディングの解釈)の信憑性を取り戻したとはいえないだろう。2023年の予言として取り上げているのはやはり詩百篇4-100で断片的な引用を行っている。「7ヶ月の大きな戦争があり、悪魔の所業によって人々が死ぬ」「天からの炎が王宮に降り注ぐ」というのを英デイリースター紙などの複数の海外メディアが伝えているとしている。
エリザベス女王の逝去を予言したというマリオ・レディングの"Nostradamus The Complete Prophecies for the Future"未来への完全予言(2006)が手元にある。頁数は340頁。Google Booksで検索してみると、最初の版は1999年で244頁。次に2006年、その後2010年版は368頁、2016年版は444頁の拡張バージョン。2006年版を入手したのは2006年9月、価格は1773円で紀伊国屋のウェブサイトで購入したもの。購入した当時はそれほど精読した記憶もなく年代と予言が並んでいる目次を眺めた程度だったかもしれない。イギリス王室の予言を見て、当該箇所を確認してみた。

この本の構成は項目、日付、四行詩の原文と英訳、予言解釈とサマリーとなっている。2022年の項目には、「英国王位継承」と「イギリスのチャールズ三世の退位」とある。エリザベス女王の逝去した後にチャールズ国王が王位を継承するのは自然であるが退位するというのはどういうことだろうか。詩百篇6-72にはこうある。

 神の感情の激しさを装って
 偉大なる者の妻はひどく不当な扱いを受けるだろう。
 裁判官はそのような教義を非難することを望む。
 犠牲者は無知な民衆の生贄となる。

チャールズ皇太子とその妃であるカミラ・パーカー・ボウルズは、チャールズ皇太子の母であるエリザベス二世の死後、憲法上の危機に直面することになる。この危機を引き起こすのは、伝統的に君主を頂点とする英国国教会である。国から干渉されることなく、自分たちのことは自分たちでやりたいと考えるゼネラル・シノッド(総主教会)は、二人の市民結婚式に対する攻撃に基づいて危機を仕組むだろう。法的には、この攻撃は根拠がなく、判決はカップルに有利になるであろうが、プロレタリアートの力(すなわちメディアを通して)を使うことによって、ゼネラル・シノッドはその方法を得るであろう。関連する指標となる日付は、次の四行詩によって与えられる、2022年[10-22]であり、この予言は続く。(同書97頁)

そして次の詩百篇10-22はこう書かれている。

 離婚を反対されたから 
 後に彼らがふさわしくないと考えた人物 
 民衆は島の王を追い出すだろう 
 王になることを予期していなかった男が王に取って代わるだろう

この四行詩は、イギリス国民にとって驚くことではなく、大きな意味を持つ。まず、2022年頃、エリザベス2世が母親の寿命を5年縮めて96歳で亡くなるということ。チャールズ皇太子がエリザベス女王に代わって戴冠し、「諸島の王」となり、母が治めていた世界の他の地域(カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど)の王では無くなるということである。- その間に共和国となる。チャールズ皇太子は2022年に74歳で王位に就くが、ウェールズ王女のダイアナ妃との離婚後、英国国民の一部から恨まれていることは今も続いている。そのプレッシャーは非常に大きく、年齢的にも不利なため、チャールズは息子のために退位することに同意する。問題は、どのような人物かである。最後の行で、ノストラダムスは「王になることを予期していなかった男が王に取って代わるだろう」と非常に重要なことを述べているからである。つまり、父親の跡を継ぐと期待されていたウィリアム王子は、もはやその姿を現さないということか。そして、既定路線でハリー王子が代わりに王になるということなのだろうか。そうなると、ヘンリー9世は38歳という若さになってしまう。(同書99頁)

しかし、現実にはチャールズ国王が2022年に退位したという事実はなく、さらにハリー王子は2020年に王室メンバーから引退し、北米で生活するようになった。最近ではハリー王子の回顧録『SPARE』という暴露本が出版されベストセラーになっている。レディングが本を執筆した時点では予想もできないことが次々と起こり、上の解釈が現実になるとは考えづらい。

そもそも2022年の少し前の予言を見ると、2020年は「ローマ教会分裂後」、2021年は「フランス南部でのテロ事件」「島の誕生」「ハリー王子の父子関係」であり、当たったと思われるものは何もない。たまたまエリザベス女王の逝去の年が的中したのが話題になっただけ。2023年以降の予言に興味のある方はインターネットで簡単に入手できるが期待外れに終わるだろう。

2023年の予言2023/01/15 14:49

毎年、ノストラダムスの大事典では「20XX年の予言」について綿密に分析した記事を執筆しているが、今年はお忙しいとのことでまだ記事は発表されていない。この手の予言はインターネットや実話ナックルズに毎年年末に出る予言話のツマのようなものでまともなノストラダムス論というわけではない。ちなみに2022年の予言を見返してみると、「闇の3日間」をモチーフにした予言が取り上げられているがもちろん人類の3分の2が滅亡することなんてなかった。ノストラダムスの予言のなかに「闇の3日間」を取り込んだシナリオは、今からさかのぼって1972年のイタリアのA.ボルドベンの著書『Dopo Nostradamus(ノストラダムス以後)』に見られる。手元に英訳本と独訳本があるし何度も再版されている。日本でも浅野八郎が『世界の奇書101冊』(1978)でその一部を紹介したことがある。ボルドベンの本は、日本で『ノストラダムスの大予言』(1973)がベストセラーになる以前のもので、英語圏でエリカ・チータムの本(1973)、フランスのフォンブリュヌの本(1980)が話題になる前の論である。1970年代はノストラダムスの予言を他の予言者の予言と複合的に取り扱ったものが流行っていた。フランク・スタッカートの本(1978)にも同じような傾向が見られ「闇の3日間」が取り上げられている。そんな古い話がボルドベンからちょうど半世紀を経て取り上げらたというからネタ切れともいえるだろう。

さて昨年も年末に「実話ナックルズGOLDミステリーVOL.9」がコンビニに並んだ。ノストラダムス自体はすでにブームが去り、過去のイベントに追いやられているので、表紙に「2023年人類滅亡の序曲」とあっても眉唾物として受け取られるだろう。それを娯楽として楽しむ分には問題はない。みんなが気になるのはウクライナ情勢が今後どうなっているのかだろう。軍事専門家でもいろいろな意見があるようだし、ノストラダムスの予言集のなかにそれに該当するような箇所はなかったのでなんともいえない。と、思っていたら詩百篇4-100を取り上げている。

天の火が王家の建物へと
マルスの光が衰えるであろう時に
7カ月の大いなる戦い 呪いで死んだ人々
ルーアンもエヴルーも王に背かないだろう

著名なノストラダムス研究家によれば、これはロシアとウクライナに起因する、より大きな第三次世界大戦の序章を示している」と解説されているが、もちろんロシアもウクライナの地名も出てこない。マルスをロシアを指しているとすれば「ロシアの栄光が衰えた先に、「大いなる戦い」が起こる」そうで2023年が危険な年になるという。そもそもノストラダムスがロシアについてどの程度の知識を持っていたのか立証することは難しい。同時代人でノストラダムス自身が参照したことが確実であるリシャール・ルーサの本では、スキタイ人とロシア人の同一性を主張しているが現代の視点ではそのような記述は誤りとされる。スキタイ人は主に現在のウクライナと南ロシアに相当する地域に住んでいた。こうした背景からすると、ノストラダムス自身がウクライナ戦争を思い描くという構図は成り立ちにくいだろう。インターネットで検索してみると、上の解釈は'High' Nostradamus warned about WW3 by God and space thanks to 'angelic spirit'に見られ、その日本語版は、【またまた・・】ノストラダムス2023年に「第三次世界大戦」を予言か!?謎のメッセージが話題になるのだろうか。この2023年の予言も今年の年末になれば結果が判明する。的中しないことを祈るばかりである。

なお、4-100のソースとして、ユリウス・オブセクエンスの『Prodigiorum libel』驚異の書が指摘されている。

C. Furnio C. Silano coss. [A.U.C. 737 / 17 B.C.]
71. Sub Appennino in villa Liviae, uxoris Caesaris, ingenti motu terra intermuit. Fax caelesti a meridiano ad septentrionem extenta luci diurnae similem noctem fecit. Turris hortorum Caesaris ad portam Collinam de caelo tacta. Insidiis Germanorum Romani circumventi sub M. Lollio legato graviter vexati.

アペニン山脈の下、シーザーの妻であるリヴィアの村で、大地は途方もない動きによって破壊された。南から北に伸びる天の光が、夜を昼のように輝かせた。コリーヌ門にあるシーザーの庭園の塔は天から触れられた。ドイツ人の陰謀に囲まれたローマ人は、公使M. ロリウスの下で深刻な嫌がらせを受けた。

伝染病や戦争ノルマンディの陰謀の前兆として、宮殿に雷が落ちることを示していると思われるが、これを実際の光景に当てはめるには受け手側に豊かな想像力が求められることだろう。

ヴォルスキとウィルス2021/09/14 23:49

ノストラダムスの大事典百詩篇第6巻98番を読んで気になった部分があったので忘れないうちにメモしておこう。この詩の解釈については新型コロナウイルスの記事のなかでも触れられているが指摘するか迷っていたことを覚えている。気になったのは次の箇所の論の進め方である。

飛鳥昭雄は、劇症化した溶連菌(溶血性連鎖球菌)感染症や、エボラ出血熱を引き合いに出した流れでこの詩を解釈した。そして、ヨーロッパの侵略(これが人によるものなのか病原菌による比喩なのか、明示されていない)と、猛威を振るう疫病とに関する詩とした*11。
 この解釈を極端な方向にエスカレートさせたのが、歴史予言研究会のコンビニ本(2008年)で、「ヴォルスキという言葉を組み替えるとウイルスとなる」と主張し、エボラウイルスをはじめとする凶悪なウイルスが人類を滅亡に追い込むのではないかという解釈を展開した*12。

飛鳥昭雄の『ノストラダムス恐怖のファイナルメッセージ』は1999年の刊行、『2012年地球崩壊の驚愕大予言』は2008年に出たので「この解釈を極端な方向にエスカレートさせた」というのは、そうかと読めば特に問題とは思えない。しかし、コンビニで販売された予言関係の本は大概は過去の解釈本の切り貼りであることが多い。「ヴォルスキという言葉を組み替えるとウイルスとなる」という与太話はこの本が初出というわけではない。エボラ・ウィルスによる人類滅亡の危機について、平川陽一の『ノストラダムスの大予言 21世紀への最後の読み方』(1996年)186-187頁にこう記されている。

人類滅亡の刺客は、エボラ・ウイルスだった

とてつもない恐ろしさをもってヴォルスキ災厄が到来する
彼らのとてつもない都市は染まり、悪臭を放つ
太陽と月を略奪し、彼らの寺院を汚す
そして二つの川は流れる血で赤く染まる
(『諸世紀』第六巻-98番)

ノストラダムスが予言したように、まさに「とてつもない恐ろしさをもってヴォルスキ災厄が到来する」のである。ヴォルスキ災厄とは、アナグラムによって、ウイルスと組み換えることも可能だ。

こうしてみると『2012年地球崩壊の驚愕大予言』の記述はこの部分を参照したのは間違いないだろう。ちなみに飛鳥の訳文はこれとは違う独自訳である。四行詩が5行になっているのは原文まま。(88頁)

ヴォルサイ族の壊滅 未曾有の戦慄
彼らの大きな都市は 業病で汚される
太陽と月は略奪され
彼らの寺院は崩壊する
二つの流れは流血で赤く染まるだろう
(未来記 第6章 98)

飛鳥はエボラウイルスとこの詩を結びつけているが、Volsquesがウイルスのアナグラムといっているわけではない。そのため『2012年地球崩壊の驚愕大予言』の解釈が飛鳥説をエスカレートさせたものというのは少々的外れではないかと思う。単に1996年のノストラダムス解釈本の焼き直しでその後に出現したSARSのような新たなウィルスを組み入れたということだろう。もちろんのこれらの解釈本を今頃取り上げて比較検討したところで特に意味のあることではない。ちなみにロシアのペンゼンスキーによるこの詩の注釈をメモしておく。

ウォルスキはティレニア海までのリリス川の両岸に住んでいたラティウム地方の古代イタリアの部族である。「大都市」とは、かつてウォルクスの地に囲まれたローマのこと。テヴェレ川とリリス川(Liris、現ガリリャーノ川)の2つの川があり、月と太陽とは銀と金を指すと見られる。