NHK番組 予言者ノストラダムスの謎Part-1を見た2014/12/14 23:20

すでにsumaruさんのブログで内容が紹介されているが、NHK-BSで放送された「幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリー」の「File-24 シリーズ 予言者ノストラダムスの謎Part-1」が昨晩NHK総合で放映された。本ブログではBSの番組を基にしたムック本について辛口の書評を認めたことがあるが、それから半年経ってNHKの地上波で再編集された番組が放映されるというのはありがたいと同時に驚きでもある。sumaruさんによれば、BS版の細かい誤りについていろいろと指摘したそうで新たに編集し直した部分もあるようだ。これについては十分誠実な対応と評価できるだろう。

その内容であるがノストラダムスについて20分という限られた時間のなか極めてオーソドックスで無難なまとめかたをしていると感じた。BSで放送した分を2回に分けたようで、次回のテーマはノストラダムス伝説の形成についてだ。オープニングは栗山千明さんの神秘的なナレーションでスタート。ノストラダムスが3797年までの予言を残したというのはセザールへの序文に記されているが「本当の恐怖はまだ終わっていない」というのはどういう意味なのだろう。これは書籍版の要約部にもあるがその恐怖について本文に何のコメントもない。起承転結の結の部分が不可欠かと思うがどうであろうか。

冒頭に的中したとされるノストラダムスの予言でヒスターという単語が含まれる詩句が登場する。ちょうど最近「ノストラダムスRG」の記事で、番組でも紹介されたノストラダムス記念館のノストラダムスの人形と15年前に撮った写真をピーター・ラメジャラーがアップしていたのを思い出した。そこではノストラダムスが執筆している手元を指さして'You'd better change the word "Hister", or the Schiklgrubers will get ideas!'(ヒスターという言葉は変えておいたほうがいいよ。そうしないとシックルグルーバーらが妄想しちゃうよ)と声をかけている。このジョークはタイムリーで思わずニヤリとしてしまう。

ソルボンヌ大学教授のオリヴィエ・ミレのインタビューもあったが、場所は画面の雰囲気から大学の研究室であろうと思われる。ミレはいわゆるノストラダムス研究家ではない。ノストラダムスに関する学術論文は1987年の”Feux croisés sur Nostradamus au XVIe siècle in Divination et controverse religieuse en France au XVIe siècle.”(画像参照)で、あとは1998年に出版された"Prophetes et Propheties"の論集で16世紀の予言に関する論文を発表しているくらい。ノストラダムスの学術的な論文で参照されることも多いのでNHKがそこに目をつけたのだろうがちょっと意外な人選といえる。

暦(アルマナ)に載せた四行詩によって読者の心をつかみ大成功したとの説明があるが、それを実証した研究はあるのだろうか。ミレの見解をアレンジしたと思われるが少々疑問である。ノストラダムスは暦以外にもその年に向けた散文の予言である「予測」(プログノスティカション)も並行して出版している。それだって人気があったから毎年出版されていたのでないか。ノストラダムスの予言集が大ヒットしたというが、いったいどの時点で大ヒットと見なせるのか曖昧である。存命中は予言集よりも暦のほうで有名だったはずで、ヒットといえるのは死後版の1568年版以降ではないかと思われる。

1999年の詩の解釈については極めて穏当なものであるが、フランス人にとっての解釈を終末と関係のない実在の王様について語った詩というのは少々いいすぎではないか。中世の伝統的な預言書の当時の世相への投影とも考えられるし、19世紀の解釈者のトルネ・シャヴィニーのようにヨハネ黙示録と結びつけて終末的解釈を行っているケースもある。アンリ二世の事故死の予言について50年あまりのち予言が当たったのではないかと噂になったという。これは1614年のセザールの注解を念頭においたものだが掘り下げ不足とも思える。いろいろとコメントしたが、全体的には好感の持てる内容だったし、次回パート2の「大予言者伝説の真相」も楽しみである。

ミレの論文

コメント

_ sumaru ― 2014/12/15 23:00

>「本当の恐怖はまだ終わっていない」というのはどういう意味なのだろう

番組プロデューサーなどに確認したわけではないので個人的な推測ですが、と学会やASIOSの本でいう『伝説』のパートに対応しているだけではないでしょうか。

 あの番組のスタイルは黒と白、2人のナビゲーターがそれぞれのスタンスから案内するという形ですが、白(検証)のほうに力点が置かれているのは明らかなので、あくまでも「恐怖は終わっていない」というのは信じる側のスタンス、それを打ち砕くのが本編の検証、という構成なのではないでしょうか。

 もっとも、書籍版だと、ほかの項目の見出しは「?」がついていたりして、そういう位置づけだと分かりやすいのですが、ノストラダムスは「?」がついていないのは、よく分かりませんけれど。

>1999年の詩の解釈については極めて穏当なものであるが、フランス人にとっての解釈を終末と関係のない実在の王様について語った詩というのは少々いいすぎではないか。

あ、ありましたね。ブログで取り上げ損ねていました。
私もそこで「ん?」と引っかかりましたが、ギノーとかはまさにフランス王と解釈していたわけですし、ひねらなければそう受け止めるのが自然かもしれない、だったら間違いでもないのかなあと、少し考えてしまいました。

10-72つながりで言うと、書籍版で「日食と解釈するのが一般的」と書かれていた点についての違和感を表明し損ねたので、もし次回に取り上げられるとしたら、どう扱われるのかなあという不安があります。

_ 新戦法 ― 2014/12/16 23:09

sumaruさん、コメントありがとうございます。

> 番組プロデューサーなどに確認したわけではないので個人的な推測ですが、と学会やASIOSの本でいう『伝説』のパートに対応しているだけではないでしょうか。

なるほどそう解説していただくとわかりますが番組を見ているときにはまったく気が付きませんでした。(^^;
他のテーマのときもそういう構成なんでしょうか。こういう構成はわかりづらいし正直いらないと思います。

> 私もそこで「ん?」と引っかかりましたが、ギノーとかはまさにフランス王と解釈していたわけですし

もちろん承知していますが、フランス人の解釈というものをギノーのみに集約するのはかなり乱暴な感じがしたので。

> 書籍版で「日食と解釈するのが一般的」と書かれていた点についての違和感を表明し損ねたので

あくまで個人的な予想ですが、書籍版で山本氏が日食と解説したもので他の部分は番組で使われたのですからおそらくこの解釈を取り下げたのではないかと思います。次回は1999年の詩に触れないのではないでしょうか。

_ とある信奉者 ― 2014/12/18 00:44

信奉者側から見ても突っ込みどころが多かったです。
特に詩篇の解釈でw
でも、NHKが今更、ノストラダムスの予言を取り上げてくれるてるので、アリだと思います。

_ 新戦法 ― 2014/12/18 23:13

とある信奉者さん、お久しぶりです。

> でも、NHKが今更、ノストラダムスの予言を取り上げてくれるてるので、アリだと思います。

そうですね。今となってはノストラダムスの認知度は限りなくゼロに近づいているといってもいいかもしれません。世間的にはもはやオールドファンにとっての昔話の域を超えることはないでしょう。NHKで取り上げられたのはそれを決定するキーパーソンがオールド世代であることも関係しているのではないかと思います。

_ kalzaw33471 ― 2017/04/05 07:02

預言集と予兆詩のどっちが先?については「シャヴィニのノストラダムス略伝」が明快な答えを示していると思います。

Cf. 歴史詩人NOSTRADAMUS, はじめに3; Poète Historique, aux portes §5-§7.

Koji Nihei Daijyo.

_ 新戦法 ― 2017/04/08 23:26

Niheiさん、

こちらへの書き込みありがとうございます。sumaruさんの所にも同じ内容で書き込まれていますが今一つ意図が掴めていません。

予言集とプレザージュがどちらが先かという論点については本ブログでも他の記事でコメントしていますし、そもそもシャヴィニーの証言はノストラダムスがサンチュリ初版を出版した時点で師のそばにいなかったのですから「長い間出版を望まずに保管していた」という記述は少々割り引いて受け取るべきかと思います。

記事を拝読しましたがフランス語の文法にお詳しいのはさすがと感じました。

_ (未記入) ― 2017/04/09 15:18

私の疑問は、貴殿やsumaru氏が、Centuriesのほうが先行作との見解を感じさせる記事をお書きになっているので、それならシャヴィニ以外に何かより明確な根拠や資料があるか、という点です。多種の状況証拠から推測しておられるのでしょうか。

KND

_ 新戦法 ― 2017/05/05 23:54

KNDさん、

亀レスで申し訳ありません。

> 多種の状況証拠から推測しておられるのでしょうか。

あまり意識していませんでしたがご指摘の通りと思います。シャヴィニーの記述をそのまま受け取るかどうかは議論の余地があるかと思いますが、他に同時代の証言者がいないことから完全否定もできませんね。

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